月がテーマの連作短編集、ラストへの立ち上がりが素晴らしい
2024年読書、1冊目は、大好きな青山美智子さんの作品。
本屋大賞5位です。
目次:
Amazon★4.5 ★5=66%
似ているようでまったく違う、
新しい一日を懸命に生きるあなたへ。最後に仕掛けられた驚きの事実と
読後に気づく見えない繋がりが胸を打つ、
『木曜日にはココアを』『お探し物は図書室まで』
『赤と青とエスキース』の青山美智子、最高傑作。長年勤めた病院を辞めた元看護師、売れないながらも夢を諦めきれない芸人、娘や妻との関係の変化に寂しさを抱える二輪自動車整備士、親から離れて早く自立したいと願う女子高生、仕事が順調になるにつれ家族とのバランスに悩むアクセサリー作家。
つまずいてばかりの日常の中、それぞれが耳にしたのはタケトリ・オキナという男性のポッドキャスト『ツキない話』だった。
月に関する語りに心を寄せながら、彼ら自身も彼らの思いも満ち欠けを繰り返し、新しくてかけがえのない毎日を紡いでいく――。『木曜日にはココアを』『お探し物は図書室まで』『赤と青とエスキース』の青山美智子、最高傑作。
引用元:ポプラ社HP
最高傑作とは!
本屋大賞5位ですし、これは読まなくては!
5編からなり、最終章で見事に繋がるプロットに拍手
一章 誰かの朔
二章 レゴリス
三章 お天道様
四章 ウミガメ
五章 針金の光
の5編からなる連作短編集。
それぞれのストーリーに登場する人物が、別のストーリーにひょっこり顔を出す形で繋がっていきます。
あ、この人は、さっきの…と気づいてうふふ♪って楽しくなるのですが、
最終章で、行き詰まっていたみんなが、それぞれの場所をみつけて輝いています。
月にまつわるお話をポッドキャストで放送するタケトリ・オキナの「ツキない話」。
竹林からお送りしております。タケトリ・オキナです。かぐや姫は元気かな。が冒頭の決まり文句。
登場人物たちは、「ツキない話」を通じて繋がっていきます。
⚠️自分用読書記録のため、ネタバレあります、ご容赦、ご理解の上 続きをお読みください。
一章 誰かの朔
看護師を辞めた朔ケ崎怜花。
子供の頃から明るく、調子のいい弟を羨み、ひがんでいました。
自分は損ばかりしている、
一番働いているのに、いつも小言をいわれる役割だ、と。
弟・佑樹は神城龍が主宰する『劇団ホルス(太陽神)』で役者の卵。
隣の猫(ルナ=月)を預かる約束をしたくせに、怜花に世話を押し付け出かけてしまう。
がむしゃらに働いてアクセサリーも持ってない怜花はハンドメイド通販サイトで
「朔」という名の指輪を見つけます。
朔とは新月のことです、とブラックムーンストーンの指輪に作者・minaさんが書いた説明が。
朔ってそんな意味があったのですね。
「すべてをゼロから始めるのも素晴らしいことですが、リセットという新しいスタートもあると思います。新月も、まったく新しい天体になるのではなく、再生の繰り返しです」(P50)
指輪に添えられたminaさんのメッセージカードの言葉が勇気をくれて…
怜花は、職場での後輩の指導で自信をなくし、辞めてしまったけれど、目に見えない新月=朔のように、誰かの役に立ちたい、とまた医療系の仕事を探そうと決意したのでした。
失敗しても、行き詰まっても、何度でもやり直せる、自分の気持ちさえ前向きであれば、と勇気づけられる言葉ですね。
二章 レゴリス
子供の頃からお笑い芸人になりたかった本田、ポン。
大学4年で銀行の内定をもらっていたのに、学園祭でコントが受けて、やっぱり芸人になりたい、と銀行の内定を蹴ってお笑いの養成所に入りました。
「ポンサク」というコンビで漫才をしていたが、相方のサクがお笑いをやめると言い出し、解散になったけれど、ポン重太郎としてピン芸人の意地は捨てていない。
でも、普段の仕事はお笑いではなく宅配の仕事。
SNSのプロフィールはピン芸人、投稿すると必ず「夜風」というアカウントがいいね、をしてくれるのです。
ある日バイク屋で元相方サクがバイトををしていることを知ります。
相方は今は芝居の道に進み、シングルファーザーの神城龍の劇団で主演を張ると言います。
月は球体なのに、盆のように平面に見えるのはレゴリスという月の砂のせいだそうです。
青森に帰省し、同級生と飲むポン。
幼馴染みは、「キラキラしている」、と言ってくれます、
「夢を持っているっていうことそのものが人を輝かせるんじゃないかな」と。(P102)
ポンに少し自信が戻ってきたのでした…
三章 お天道様
一人娘の亜弥が妊娠した、結婚する、そして福岡に行くと宣言しました。
勝手に決めやがって、と父親の俺は、全く面白くないのです。
出産前から、妻の千代子は福岡に手伝いに行って、慣れない一人暮らし。
経営している二輪の板金塗装工場「高羽ガレージ」に出入りのサニー・オートの愛想のいい朔ちゃんが亜弥の結婚相手だったらよかったのに…と無口な信彦と比較してしまう、俺。
工場で事務を担当する妻が留守で慣れないPCやパッドに苦戦、出張で東京に来た亜弥の夫・信彦が持ってきたお土産にも俺はクールな対応をしてしまう。
ヤキモチを焼いているのでしょう^^
信彦の一挙手一投足が気に食わない。
が、「似て無くて当然だよな、俺は君のお父さんじゃないから」に信彦は
「…お父さんです」「僕の、お父さんです」に泣けました…
四章 ウミガメ
高校3年生の那智は、両親が離婚して母と二人暮らし。
いつもSNSでポンサクのポンの投稿にいいね、をしています。
華やかなサクより、真面目そうなポンに注目しています。
母は那智に生活費だけ渡して仕事を掛け持ちしているので顔を合わす機会は少ない。
母も学校も友達も、みんな私を嫌っている、私もみんな大嫌いだ、と自分の殻に閉じこもり、高校卒業と同時に家を出られる資金を貯めようと目論見ます。
ウーバーイーツの配達員になるべくバイクの免許を取得したいのだけれど…未成年には必ず保護者の同意が必要で、無力さを思い知るのでした。
なんとかバイクの免許も得て、バイクは貯めていたお金と母が足りない分を足してくれて(こういうところは甘えとく)紺色のベスパを購入、「夜風」と命名。
ウーバーで配達に行った先に、クラスメイトの神城迅(劇団ホルスの主宰者の息子)がいて…驚く二人。
迅は、小学生の時に母親が出ていったのだと言います、那智も父親が出ていったことを話し、二人は距離を縮めました。
那智は、明るい光に埋もれて見えなかった、月のような迅を見つけて、ここにいたんだ…とホッとするのでした…
ある日、バイクで転倒して「夜風」のエンジンがかからなくなってしまいます…
困った時に頼れるのは、唯一の友人、迅。
連絡すると、劇団員でバイク屋でバイトをしている佑樹が来てくれて…念のため入院することになり、母は弁当屋のエプロンのままで飛んできて抱きしめてくれました。
バイクは高羽さんが修理をして、メンテナンスもついでにしてくれてメンテ代は無料!
「ただ誰かの力になりたいって、ひとりひとりのそういう気持ちが世の中を動かしているんだと思う。」(P205)
佑樹くんの言葉が素敵♪
心を開いてないのは那智の方で、お母さんはいつだって那智の味方なんだ、って気がついたみたい^^
迅の母は切り絵作家でした。
両親が大喧嘩して出ていくことになった時、母は「父と母どちらを選ぶの!?」と詰問。
母が大好きだったからこそ、かえって仕事の邪魔をしてはいけないと思い父を選んだといいます。
その複雑な思いを、切り絵作家のお母さんはわかっていたのでしょうか?
五章 針金の光
minaという名前でハンドメイド通販サイト「ラスタ(輝く、の意)」にアクセサリーを出品している睦子。
理解ある夫と近くに住む義両親のお陰で、小さなアパートながらアトリエも持っています。
人気に火が付いて、インスタグラムに出版社からムック本出版のお誘いが来るまでに。
やがてアクセサリー作家としての矜持が睦子を傲慢にし、夫との軋轢を生みます。
出版社との打ち合わせで名前が出た、切り絵で成功した切り絵作家・リリカさんの展示会に誘われ行ってみると月をテーマにした作品が多く展示されていました。
リリカさんは言います、ひとりの時間を持つことと孤独は別物、と。
「あたりまえのように与えられ続けている優しさや愛情は、よっぽど気をつけていないと無味無臭だと思うようになってしまうものなのよ。」(P238)
「環境が大事って私が思うのはね、《中略》周りの人たちと豊かに関係し合っていくってことよ。」(P238)
インスタのDMに心無いメッセージが届きもやっとしていた時に、目薬と間違ってアロマオイルを手に取ってしまう…違う、と思ったときには目に入っていて…
そんな時、姑から電話。イラッとしながら出ると、異変に気づき、的確なアドバイスをくれました、「救急医療相談窓口」に電話するように、と。
土曜日の午後で開いている病院がない、と諦めていたけれど、居住地近くの開いている病院を探してくれました。
電話の最後に「朔ケ崎がお受けいたしました」。
あ、一章の怜花ちゃんが、働いてる! もうこれだけで…この文章を書いている今も涙が溢れてきてます。
みんな繋がっていて、知らない誰かの役に立っているんだ、って。
夫の言葉も、沁みる!
「minaのアクセサリーを楽しみにしてくれる人がたくさんいるんだろ。それは素晴らしいことだよ。あせったりしんどい思いしながらじゃなくて、幸せな気持ちでつくられたものをみんな待ってるんじゃないかな」(P252)
いちばんそばにいてくれる存在が私には見えていなかった。周囲の称賛が…太陽が明るすぎて。(P253)
自分が自分が、で夫のことを顧みもしてなかった、それなのにずっと夫は見守ってくれていたのです、ようやく大事なことに気づいた睦子でした。
タケトリ・オキナのポッドキャストはいつもと違うタイトルで…
「かぐや姫へ」
かぐや姫は見つかったようです。
タケトリ・オキナが初めて自分語りをしました。
あぁ、そういうことだったのか…とストンと腑に落ちて(だいぶ前からうすうす気づいてはいましたが^^)
じわ〜っと感動が押し寄せてきます。
タケトリ・オキナの母親はどんな人なんだろう、と睦子はこの家族の再生を祈るのですが、読者は、もうわかっています^^
心に染みるそれぞれの人生、月にまつわる小ネタも楽しい♪
日々、月は姿を変え、時にはそこにあるのに姿が見えないことも…それが昔から人の心を引き付けるのでしょう。
タイトルにもなっている、レゴリスや、満月の日に孵化するウミガメの話、太陽と月の大きさの話などの小ネタも絡んでいて楽しいです。
朔という字(言葉)には、新月の意味があるといいます。
月のはじめの日をついたち、っていうのは月が立つ、つきたつから「ついたち」に訛ったそう。
新月の日になにか新しいことを始めるというのも、気持ちを新たにするので思いが叶いやすいのかも…
本屋大賞2023 5位
書店員が売りたい本、本屋大賞。2023年は…
《本屋大賞2023》
大賞 汝、星の如く(凪良ゆう)
2位 ラブカは静かに弓を持つ(安壇美緒)
3位 光のとこにいてね(一穂ミチ)
4位 爆弾(呉勝浩)
5位 月の立つ林で(青山美智子)
青山美智子さんの作品を読んでいて楽しいのは、勇気づけたり、生きるのが楽になるような文章がたくさん散りばめられているからなんです。
最後の仕掛けがお見事で泣いてしまいます。
物語の中に一貫して流れる「月」というテーマを様々に描き出してストーリーとカラメル手法も素晴らしい!
発売時期が違ったら、本屋大賞も狙えた作品だと思います。
おすすめの1冊です。
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