happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

【朝井リョウ】直木賞作家デビュー10周年記念作「正欲」読了

新聞広告のキャッチコピーに釣られて読んでみました

2021年3月25日刊行。

新聞広告のこの一文に、読んでみようと思わされました。

「みんなのヒミツ、暴かれた。朝井さん、やっちまったね。どうなっても知らないから」ーー高橋源一郎

 

作家・高橋源一郎さんのおっしゃる「やっちまったね」とは?

どうなっても知らないから…? 怖いw

作家生活10周年記念、気迫の書き下ろし長編小説。

 

読んだら元の自分には戻れない

えっ?? なになに??と興味津々で、4月18日に図書館に予約していました。

 

6月12日には、朝日新聞の読書欄「売れてる本」にも登場。

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世間の言う「多様性」では測れないデリケートな問題

多様性(たようせい)とは、幅広く性質の異なる群が存在すること。性質に類似性のある群が形成される点が特徴で、単純に「いろいろある」こととは異なる。

Wikipediaより引用

 

世間で当たり前のことが、当たり前でなく、息苦しい人たちがいて、この先を思うと絶望してしまう人が、仲間を得て、ようやく呼吸が楽になる。

自分が自分らしくいられる安住の場を仲間との交流に求めているうちに犯罪に巻き込まれてしまう…

ざっくり言うとそんなお話。

 

ここに出てくる息苦しい人たちは、性的少数派の人たち。

 

自分がマイノリティであることに気づき、苦しんでいます。

 

今、世間で言われているような、LGBTや児童に関心のある人は、対象が「人間」ですが、本作に登場する人たちは「事象」に興奮する人たちなのです。

 

You Tubeで動画リクエストを募集する小学生の二人に、「水」に関わる動画のリクエストをするFujiwara Satoruと言う人物は、もしや自分と同じタイプの人間ではないか、とコメント欄でつながっていきます。

 

世間が思う多様性よりも、もっと細分化された「嗜好」というのが存在するのも知りました。

 

登場人物たち

寺井啓喜(てらいひろき)

妻と息子との3人家族。検事の仕事が忙しくて父親らしいこともしていない。

小学生の息子が不登校になり、同じ不登校の友達とYou Tubeを始めて笑顔を取り戻す。

You Tubeチャンネルに、水を使った遊びを度々リクエストする人物がいました…。

 

桐生夏月

岡山のショッピングモールの寝具売り場勤務。

ショッピングモールの他の従業員の噂好きとおめでたさに辟易する毎日。

同窓会で、同じ嗜好の佐々木佳道と再会して、「生き延びるために」仮面夫婦になるのでした。

 

神戸八重子(かんべやえこ)

大学学園祭の実行委員。「ダイバーシティフェス」を提案。

自室の隣の部屋にいるひきこもりの兄に恐怖と嫌悪感を感じている。

ダンスサークル「スペード」のひとり、諸橋大也(アカウント名:Satoru Fujiwara)が自分と同じタイプだと察知して近づきます。

 

諸橋大也

世間が簡単に口にする「多様性」という言葉に違和感を覚えています。

Satoru Fujiwara名義で、小学生のYou Tubeに水を使ったゲームをリクエストしていた。

そのコメント欄から「古波瀬(こばせ)」という人物からDMが届き、仲間を見つけることができました。

You Tubeは、小学生が運営していたということで規制対象になり、アカウントが停止されてしまいました。

 

物語が進むにつれて、絡み合う登場人物たち

水フェチのたまり場、小学生You Tube「元号が変わるまで」で水を使った動画を観ることができなくなり、

自分たちで満足できる動画を撮ろう、と佳道と夏月は行動し始めました。

 

もっと仲間を募って、同じタイプの人間同士ネットワークを編んで足元を固める計画。

 

「パーティ」という名のグループは、食品会社勤務の佐々木佳道と夏月、大学生の諸橋と、小学校非常勤講師の矢田部陽平の4人で構成されていましたが、

矢田部は、児童買春の前科があり、捜査中に、PCなどから、良からぬ画像多数が発見され、芋づる式に、「パーティ」のメンバーが逮捕されることに。

公園で水遊びをして写真を撮る日、仕事で参加しなかった夏月が逮捕を免れました。

 

警察は、びしょ濡れの小学生の写真を押収して、彼らを児童性愛と疑っていました。

「水に興奮するという事を、絶対に人に言わない」、という約束を佳道と交わしていたため、夏月は本当の事を言えず、佳道の疑いを晴らすことができませんでした。

 

大也のことが好きで、繋がりたかった八重子を振り切って、仲間とつながりに行った大也は、捕らわれてしまい、読後感はスッキリしません。

 

ただ、自分が知っている多様性というのは、世の中のほんの一部なんだ、ということに気付かされました。

 

誰も、その生き方は間違っていない、感じ方も嗜好も自由だ、というメッセージがこめられている作品だと思います。