⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【彩瀬まる】「神様のケーキを頬ばるまで」読了♪

彩瀬まるさんの著作、『新しい星』が2021年下半期の直木賞候補になったので、彩瀬まるさんの本を2冊読みました。

 

Amazonのサイトで、高評価だった、『神様のケーキを頬ばるまで』を読みました。

Amazon評価 ★4.6

 

『神様のケーキを頬ばるまで』は、5編の短編からなる連作短編集です。

  1. 泥雪
  2. 七番目の神様
  3. 龍を見送る
  4. 光る背中
  5. 塔は崩れ、食事は止まず

 

1~4は2012~2013年に小説「宝石」に掲載、5は、書き下ろし。

5作は、画家、のちに映画監督のウツミマコトの作品でつながっています。

 

 

⚠読書記録ゆえ、ネタバレしてます、ご注意ください

 

 

 

 

 

泥雪

主人公は、離婚して、子供二人を育てながらアロママッサージのお店で生計を立てています。

初めてお店を開く時、マッサージルームに掛ける絵を買いに行くと…店主がウツミマコトが初めて描いたという絵を出してきてくれました。

静謐な雪景色。

後に映画監督になったウツミマコトが描いた映画『深海魚』は、絵とはまるで違うドギツく、胸を抉られるような内容でした。

それでも、ウツミマコトはこの5000円の絵を描いていたところから大きく羽ばたいて行きました。

生まれた家庭でも、結婚した家庭でも、離婚した今も、しんどい思いをしながら生きている主人公。

マッサージに通ってくる人も、いろんな事情を抱えていて、「先生はしっかり生きていてえらいね」と褒めてくれます。

他人の目から見える自分は、自分が思う「自分」より少し素敵でかっこいい、みんなもきっと。

そして、そうであるように、努力したいな、と。

 

七番目の神様

子供の頃から体が弱く、運動会でもビリ(七番目)、

先生がマイクを取って連呼します、「橋場くん、がんばれ」。

そのコールが子供心に恥ずかしく虚しくもあって…

頑張れ、は励ましているようでいて、「頑張れてない、未到達」の意味にも取れます、必死で走っている子を悪目立ちさせる方法。

 

橋場は体が弱いことで少し劣等感を持って生きています。

体が弱いことで、親に心配をかけていないか、友人から馬鹿にされないか…いろいろ考えて、接客の達人です。

 

彼が店長をしているカフェのあるビルの上階にあるIT企業の同世代の藤原が常連です。

 

ある日、藤原から 人数合わせのために、合コンに誘われて…

出会った女の子・笑美は、屈託のない明るい女性で、ウツミマコト監督の映画『深海魚』が好きだと言います。

橋場の好みではないことを…笑美になら言える、ありのままの自分をわかってくれそうだから…

希望につながるラスト^^

 

龍を見送る

インディーズバンドとして、多くのファンを抱えていた朝海と哲平。

朝海が高校2年のときに作ったロックナンバー「ラピスラズリ」は、爆発的ダウンロード数をマークして、あちこちからバンドメンバーに、とお誘いがあるほどでした。

 

そんな時、ハンドルネーム「コン」が朝海が作った「ラピスラズリ」を歌っている動画を目にしたことで朝海の運命が大きく動き始めます。

 

二人が組んだ「フォックステイル」というバンドは大人気バンドになっていきました。

クリスマスイブのライブでの、哲平の歌唱は神がかっていて、朝海は哲平に「龍が降りた」と感じたのです。

 

そのライブを最後にフォックステイルから抜けた哲平は、有名な作曲家・オリハラユイと新しいユニット「サウザンドアイズ」を立ち上げました。

 

哲平を引き抜いたオリハラユイへの嫉妬、彼らの曲に対する嫉妬、哲平がどんどん歌唱力を上げていくのを目の当たりにして羨望と言葉にならない複雑な思いが描かれていて。

読まされました…

 

「あの人とはそんな関係じゃない」っと哲平はいい、

朝海は、(哲平が)どれだけ自分のことを好きいてくれても、哲平は「龍」を手放せない、それがわかっているから 朝海は、哲平のことを遠くから見守ることに決めたのでした。

 

「龍」=哲平の持つ才能が、離れていくのを見送った朝海の決意。

 

この章のウツミマコトは…朝海のバイト先の古本屋の店長が映画『深海魚』を観てきた、と話すところです。

 

光る背中

一流商社勤め、長身で彫りの深い顔に甘いヴォイス…

もてもて上条由隆の彼女でありながら、満たされない思いの十和子。

いつも、彼の気に入られるように、演じている、主体性のない女の子。

 

本当は、プロレスを観るのが好きなのに、イメージが悪いからと言い出せない。

 

そんな彼女の本質を上条は見抜いていました。

もし自分の顔が事故で潰されて、会社もリストラになって、お金もなくなって…そんな状態になっても力を合わせてやっていこうって思ったことある?と聞かれ…

 

「それは難しいです・・・」と言った瞬間に十和子の恋は終わりました。

 

上辺の、かっこいい彼、商社マンで金持ち、見た目や聞こえの良さだけを見て、本質的なところでつながろうとしていなかったのは上条にお見通しだったようです。

 

それからは自分に素直になって、大好きなプロレスを生で初観戦。

 

勝っても負けても、出し切ったの背中は光っている、そんな生き方をしたい、と思う十和子でした。

 

塔は崩れ、食事は止まず

私、天音と郁子は相棒でした、グルメサイトでも人気のパンケーキ店「のばら」を二十代前半から苦労して一緒に作り上げて。

パンケーキ担当は、郁子、経営などを担当するのは天音。

メディアに取材され、行列ができるほどになったときに、支店を出そうという話になって…二人の意見が分かれ、結局、天音が店を去ることになりました。

二人で助け合っていたからこそうまく行っていたはずの「のばら」は、天音がいなくても順調で、新しい大きなビルのテナントに入って、ますます人気UPしていました。

それが面白くない天音は怠惰になり身体に変調をきたすほどになっていました。

 

そんな時、マンションの向かいの建物にあるカフェで働くか、と行ってみると閉店していて、同じフロアのマッサージ店のおばさんが、このビルが取り壊しになる、うちも閉店する、と教えてくれました。

今日で終わる、あなたが最後のお客さんだから無料にしてあげる、とマッサージをしてくれて、身体の悪いところを指摘してくれました。

そこに、飾られていたのが、第一話に出てくるウツミマコトの絵。

「泥雪」に出てくるマッサージ師の女性は、年を経て、オバサンとして登場。

 

天音は、薬を飲みながら、近くのホームセンターでアルバイトの職を見つけました。

そこで出会った正社員の波江さんは、さっぱりとしていて明るくて、素敵な人。

「大野さん(天音の姓)いじわるだもん、ぜったいしたよ」(P192 より引用)とか

「ああ、口はキツイかな。機嫌が悪いとすぐに顔に出るし、自分が出来ることを無条件で他人にも求めそう」(P205 より引用)

…とはっきり言うけれど、裏がない。

いつも笑っていて、それでいて、責任はきっちり果たすかっこいいシングルマザー。

 

波江さんの一人息子の晴彦くんを預かったときに、「のばら」で焼いていたパンケーキのレシピを思い出して、パンケーキを作ってあげました。

 

翌日、残ったパンケーキを頬張って天音は思う、自分で自分を褒めて良いはずだ。

パンケーキを咀嚼する、身体に染み渡っていく、これは天国の甘みだ…

 

食べて、寝て、働いて…いろんな人の営みが日々繰り返されていく。

「のばら」を失って、人生ヤケになってやる気を喪失していたところから、ようやくまた新しい生活が始まったことに、ささやかな喜びを噛みしめる天音でした。