直木賞受賞作、直木賞候補作を読んでおきたい、と思い図書館に予約していました。
何かの受賞作でも、Amazonの評価も低く、実際に読んでもなぜこれが受賞したのか?と不思議なこともあるのですが…
嶋津輝さんの作品は、直木賞を逃しましたが、戦前〜戦後の女性の生き様をいきいきと描いていて読まされました。
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襷掛けの二人 嶋津輝
第170回直木賞候補にノミネート。
裕福な家に嫁いだ千代と、その家の女中頭の初衣。
「家」から、そして「普通」から逸れてもそれぞれの道を行く。「千代。お前、山田の茂一郎君のとこへ行くんでいいね」
親が定めた縁談で、製缶工場を営む山田家に嫁ぐことになった十九歳の千代。
実家よりも裕福な山田家には女中が二人おり、若奥様という立場に。
夫とはいまひとつ上手く関係を築けない千代だったが、
元芸者の女中頭、初衣との間には、仲間のような師弟のような絆が芽生える。やがて戦火によって離れ離れになった二人だったが、
不思議な縁で、ふたたび巡りあうことに……幸田文、有吉佐和子の流れを汲む、女の生き方を描いた感動作!
第170回直木賞候補にノミネート。引用元:文藝春秋BOOKS
戦前から戦中、戦後を生き抜いた千代とお初の物語
再会 昭和二十四年(1949年)
嫁入 大正十五年(1926年)
噂話 昭和四年(1929年)
秘密 昭和七年(1932年)
身体 昭和八年(1933年)
戦禍 昭和十六年(1941年)
自立 昭和二十四年(1949年)
明日 昭和二十五年(1950年)
第二次世界大戦が終わって4年程たったころ、鈴木千代は、口入屋(職業周旋業)で住み込みの家政婦の仕事を得ます。
住み込み先は、戦前、千代が裕福な家の奥様だった頃、女中頭として働いていた女性・お初の家でした。
主従が逆転する、と冒頭でわかります。
が、それはいつなのか、どのような形で逆転するのか、と興味を持って読み進みました。
親が決めた結婚相手とはうまくいかず
結婚前も、結婚後もほとんど夫婦の会話はありませんでした。
夫婦生活も、少なく、自分に自信のない千代が心がけて会話をしようと努めると、
「おとなしいところがいいと思って結婚したのに」と嫌がられてしまいます。
製缶会社の社長の義父とお妾さんで女中頭のお初さん、若い女中のお芳ちゃん、夫の茂一郎、そして千代。
夫の間に子供ができないのは、夫が自分に興味がないからだと思っていたら…
千代は生まれながらに女性器が人とはかなり違っていることを知ります。
その頃には、夫は草加にある製缶工場で働く美人の事務員のお春と懇ろになっていました。
千代はお春さんに嫉妬もせず、お人好しなのか阿呆なのか、読んでいてもどかしかったです。
女三人と義父の暮らしがのんびりと過ぎて行きました。
料理上手なお初さんの采配で、お芳ちゃんや若奥様の千代が台所で立ち働く様が読んでいて楽しいです。
戦争でひとりぼっちになって
お芳ちゃんは嫁いで行き、
夫の茂一郎は労咳(肺結核)で亡くなり、義父も他界して
婚家の屋敷にお初とふたりが残されました。
庭は畑になり、防空壕も掘って貧しい食料で凌ぐ生活が細かく描かれています。
東京に空襲、千代とお初は共に人の流れに任せて逃げたのですが、お初さんが道端のおじいさんを助けようとしたことで離れ離れになってしまい…
戦後は家を失くした人が巷に溢れ、関係の薄い人でも伝手があれば頼って部屋を貸す、という生活を送ってたのですね。
戦後の住宅難と闇市は戦後をテーマにしたテレビ番組などで観たことがあり、知っていましたが、一文一文、文字を読んでいくと、真に迫り、苦しかったです。
当たり前にある、今の平和な世の中が本当に尊く感じられました。
女一人で行きていくことの大変さ
今でこそ、男女雇用機会均等法ができて、ダイバーシティなどと女性も活躍できる世の中ですが、
千代が生きていた時代は男尊女卑の時代ですし、職業で下に見られることもあった時代。
一度はお芳ちゃんの疎開先を頼った千代でしたが、肩身の狭さから、一人で生きていかなければ、と東京で職を見つけました。
製紙工場の寮母さん。
寮生の朝食をつくり、お弁当をつくり、洗濯をし、夕飯をつくり…と1日中こまねずみのように働いていました。
狭くても自室があり、畳の上で寝起きできることがありがたい千代でした。
遅ればせながらの淡い恋
寮生の最年長者が南方の戦場から生還した男性でした。
時々彼が夜中にうなされて起き出した時に、お茶を入れてあげてから、親しくなり、
千代の部屋で身体を重ねる仲になりました。
千代の身体は夫とはうまくいかなかったのに、初めて女性の喜びを知るのでした。
それなのに…彼は突然川で水死体で見つかって…
寮生から噂になっていた、と知らされ、寮を去る決意をした千代。
思い出の詰まった寮を去るのは辛かったけれど…
新たな職探しで生き別れたお初に再会
それは話が出来杉君!な感じですが
「住み込み」が条件で口入屋に職探しに行くと、1件だけ条件に合うものがあると言います。
なんと、依頼人は三村初衣、お初さんではありませんか!!
目が見えないので、身の回りのことをしてほしいと。
また、お初さんとの暮らしが始まりました。
千代は、元奥様がお初の使用人だと気を使うだろうと、目がみえないことをいいことに別人のふりをしていました。
戦争で大きな声を出しすぎてガラガラ声になっていたのでごまかせると思っていたけれど…
話し方や声の性はそう変わるものではない、最初からわかってたよ、とカミングアウトされてちょっぴり恥ずかしい千代でした。
女性の半生を描いた物語は戦争や時代の流れも読めて興味深い
昔の市井の人々の暮らしぶりが細かく描かれていてリアルで面白かったです。
千代は1926年に19歳で嫁入りしました…ということは、1907年生まれ、明治40年生まれ。
大変な時代を生き抜いて、戦後にようやく自分の足で立った実感を得たのでした。
お初さんは、昔取った杵柄、三味線で生計を立てていて、お弟子の和江さんは半玉。
晴れて一本(一人前の芸妓)になり、旦那さんも付きました。
和江から、旦那さんの奥さんと娘さんにお料理を教えてほしい、と仕事の依頼も舞い込み、
千代の人生が大きく拓けていく予感を感じさせるラストで幕。
何度も出てくる「特徴のない顔」と卑下する千代
自分の顔は特徴がないから人に覚えてもらえない、という表現が何度も出てきます。
これにはすごく違和感を覚えました。
狭い日本でも1億人以上が住んでいて、ひとりとして同じ顔はないし、それぞれ個性はあるけれど、「特徴のある顔」の人の方が少ないと思ってます。
ほとんどの人が特徴のない顔。
卒業アルバムの集合写真を見ても似たりよったり。
顔に大きなほくろやあざがあれば特徴にはなるのでしょうけど。
特徴のない顔、というのが、千代の自信のなさに繋がっているようです。
顔で覚えてもらえないなら、表情を明るくするとか、いつも愛嬌よくしていれば覚えてもらえるもの。
能面だ(表情がない)から覚えてもらえなかっただけなのに、顔のせいにして…根暗だわ。
第170回直木三十五賞候補作品
・加藤シゲアキ『 なれのはて』(講談社)
・河﨑秋子『 ともぐい』(新潮社)
・嶋津輝『 襷がけの二人』(文藝春秋)
・万城目学『八月の御所グラウンド』(文藝春秋)
・宮内悠介『 ラウリ・クースクを探して』(朝日新聞出版)
・村木嵐『まいまいつぶろ』(幻冬舎)
6作が候補に上がっていました。
直木賞を受賞したのは・・・河﨑秋子『 ともぐい』でした。
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