小川洋子さんの著作を読むのは、2012年に出版された『人質の朗読会』以来。
前回から10年以上開いてしまいました。
本の帯には
舞台という、異界。
舞台という、奇跡。
演じること、観ること、観られること。
ステージの此方と彼方で生まれる特別な関係を描く、極上の短編集。
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舞台、劇場をテーマにした8編をおさめた短編集です
指紋の付いた羽
ユニコーンを握らせる
鍾乳洞の恋
ダブルフォルトの予言
花柄さん
装飾用の役者
いけにえを運ぶ犬
無限ヤモリ
タイトルを見ると『装飾用の役者』以外、舞台、演劇とどういう関係があるのか、と謎ですが…
いろんな角度からアプローチされていて興味深く読みました
ざっくりあらすじというか要約。
⚠️ネタバレあります、ご注意ください
1️⃣指紋の付いた羽
登場するのは、縫製工場に務める「縫い子さん」とその工場の向かいにある金属加工工場で働く父子家庭の「少女」。
縫い子さんは、少女が幼稚園に上がる時に、金属加工会社の社長の奥さんに少女の通園バッグやお弁当袋を作って欲しい、と頼まれたのでした。
少女が小学校にあがってしばらくした時、金属加工会社社長夫人から、『ラ・シルフィード』というバレエのチケットを2枚もらった縫い子さんは、いつもひとりで父を待っている少女を誘ってバレエを観に行くことにしました。
少女は、『ラ・シルフィード』の世界に魅せられ、シルフィードにお手紙を書きます。
密かにシルフィードになってお返事を出してあげる縫い子さん。
少女は、路地裏の捨てられた工具箱を舞台に、壊れたラジオペンチを妖精に見立てて、『ラ・シルフィード』を上演しています…
2️⃣ユニコーンを握らせる
自称、元女優のローラ伯母さんの家に泊まった私。
独特の生活習慣、独特の感性で暮らしているローラ伯母さんに戸惑うばかり。
例えば…毛糸の手袋を編んでいるのですが、1日に1目しか編まないのです。
えっ?もう終わり?
彼女の頭の中には、テネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』が今でも鮮明に残っているようで、ふとした瞬間スイッチが入ったように、セリフを諳んじ始めるのです。
その時だけは、ローラ伯母さんは、元女優だったと思わせる セリフ回しで語るのでした…
劇中、ローラはジムの掌にガラスのユニコーンを載せて1本ずつ指を折って握らせます。
伯母さんの編んでいた手袋の掌にはユニコーンの柄が浮き出していて…
手袋をはめて手を握ると、ユニコーンを握るシーンに重なります。
伯母さんは、まだ来ないビルが来たら、その手袋をプレゼントするのでしょう・
『ガラスの動物園』のようにローラ伯母さんは、誰とも知らない「ジム」を待ち続けているのが切ないような…ちょっぴり怖い(精神状態)。
先日読んだ、劇団が舞台の『ヒカリ文集』にも『ガラスの動物園』が登場してました。
いつか、一度は観ておかないといけない戯曲かも…
3️⃣鍾乳洞の恋
とても気持ち悪い…設定。
伝票室の室長は、歯のブリッジの調子が悪いのにずっと放置していると…
ある時、歯の奥から、尺取り虫のような白い虫が出てきて…
このお話の「舞台」は、室長がお世話になっている鍼灸院の院長が『オペラ座の怪人』を観る件。
4️⃣ダブルフォルトの予言
座敷わらし的な、オペラ座の怪人のように、劇場に住んでいる謎の人物。
予知能力を以って、芝居を円滑にまわしている…らしい。
彼女は実在するのだろうか?
5️⃣花柄さん
一人暮らしの女性が亡くなりました、彼女は「花柄さん」と呼ばれる、ちょっと近所でも知られた人物でした。
芥川賞受賞の『紫のスカートの女』を思い出しました。
花柄さんは、花柄のスカートしか持っていないから「花柄さん」と呼ばれていました。
彼女の趣味は舞台の出待ち。
楽屋口では、有名スターにプレゼントを渡したり、握手をしてもらったり、すこしお話をする人が多いのですが
花柄さんは、最後まで残っていて、無名のキャストのサインを集めるのが趣味でした。
彼女が亡くなった時、ベッドの下に大量のサイン入りプログラムがびっしりと積まれていました。
花柄さんの生き様が書かれた短編
6️⃣装飾用の役者
資産家が自宅の庭に作った劇場で役者として暮らす、という仕事を受けた私の回想。
舞台の上から降りてはならず、お手伝いさんが持ってくるご飯を舞台の上で食べる。
資産家のN老人は、週に2回、時には続けざまに劇場に見に来ますが、「私」はセリフも筋書きもないただの日常を見せるだけ、という退屈なお仕事でした。
なんと庭に作った墓地には、墓守が、水車には水車小屋番が雇われているという大掛かりな資産家のお遊びでした。
7️⃣いけにえを運ぶ犬
演奏会にでかけた僕。
演目はシベリウスのヴァイオリン協奏曲と、ストラヴィンスキーの『春の祭典』。
客席で聴いたファゴットのソロの音色が、子供の頃の記憶を呼び覚まします…
時折町にやってくる「馬車の本屋」の到着の知らせのラッパの音に似ていました。
『春の祭典』の内容と過去の記憶、すなわち、セントバーナード犬が引いてやってくる移動本屋の苦い思い出が、2つの思いが縄のように絡まって進んでいきます。
8️⃣無限ヤモリ
山間の温泉保養所のロビーに置かれているつがいのヤモリ。
子宝に恵まれるというそのヤモリにまつわるお話。
2匹のヤモリはやがて合体して身動き取れなくなり、死んでミイラとなったときに「無限ヤモリ」が完成する・・・
あまり気持ちのいい話ではないです…
なぜ、小川洋子さんの著書を読まないのかわかりました
2012年に『人質の朗読会』を読んだのは、本屋大賞5位に入っていたからでした。
『博士の愛した数式』は映画にもなっていますが、小川洋子さんの作品を手に取る機会がないです…
登場人物たちを淡々と語る著者。
縫い子さん、少女、室長、院長、彼女、管理人…
敢えて名前を付けず、俯瞰した目線で描いておられます。
硬質で静謐な世界。
私が求めるのは、胸に熱いものが込み上げてくるような人間讃歌や、小さな営みでも愛の溢れた作品。
好みの方向性と違いました。
今回、新たに「小川洋子」さんのカテゴリーを作ろうかと思いましたが…とりあえず保留。
装画は、ダークな絵柄がユニークで人気のヒグチユウコさん♪