⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【森沢明夫】『おいしくて泣くとき』読了|作者の仕掛けにうならされる、優しい物語

先日読んだ『エミリの小さな包丁』にホッコリさせられたので、森沢明夫さんの作品のおすすめ5選の中から、2020年に出版された『おいしくて泣くとき』を読みました。

 

Amazon ★4.4 (★5 65%)

 

貧困家庭の子どもたちに無料で「こども飯」を提供する『大衆食堂かざま』。
その店のオーナーの息子、中学生の心也は、「こども飯」を食べにくる幼馴染の夕花が気になっていた。
7月のある日、心也と夕花は面倒な学級新聞の編集委員を押し付けられたことから距離が近づき、そして、ある事件に巻き込まれ……。
遠い海辺の町へと逃亡した二人の中学生の恋心と葛藤。無力な子どもたちをとりまく大人たちの深い想い。
“子ども食堂”を舞台に、今年いちばん温かくて幸せな奇跡が起こる!
決して色褪せることのない人生の「美味しい奇跡」を描いた希望の物語。

角川春樹事務所HPより引用

 

温かいストーリーで、ラストの仕掛けに泣かされます。

 

 

 

⚠️以下、ネタバレあります、先にわかってしまうとつまらないこともあるので、未読の方はご注意ください

 

 

主人公の心也、同級生の夕花、カフェミナミのゆり子の視点で描かれています

心也は、貧困家庭の子どもたちに「こども飯」を提供する「大衆食堂かざま」の一人息子。

同級生の夕花や、隣のクラスの問題児・石村もかざま食堂へ食べに来ていました。

 

夕花は、可愛くて優等生だけれど、家庭が荒れているらしく、クラスの女子から仲間はずれにされています。

 

部活をしてない夕花とサッカーで膝の靭帯を損傷してサッカーをやめた心也は、学級新聞の編集委員に任命されたことで、ぐっと距離が近づきます。

 

そんな2人の視点から描かれるストーリーと、カフェレストラン・ミナミの奥さん、ゆり子のストーリーが並行して描かれていて…

 

一見なんの繋がりもない2つの話がラストでつながって…心が温かいもので満たされていきます。

上手いな〜♪

 

家庭にも学校にも居場所のない夕花に思いを馳せて

夕花にとって、学校も決して居心地のいい場所ではないけれど、家よりはマシ。

母が再婚した義父は、仕事もせずに朝からお酒を飲んだり、パチンコに行ったり。

そのため、母は朝から晩まで働きっぱなしでした。

機嫌が悪くなると暴力をふるう義父には、小学生の幸太という連れ子がいて、いつも2人で体を寄せ合って、怯える日々。

 

家庭は、一番自分をさらけ出せて、安心できる場所のはずなのに、夕花の家庭は、彼女にとって、恐怖や緊張を感じる場所。

安心どころか、親の機嫌ひとつで、暴力を振るわれてしまう。

親を頼るしかない未成年の自分が歯がゆくて、早く大人になって働いて自由な生活を手に入れたい…

そんな夕花のような少年少女が大勢いるんでしょうね。

 

先日読んだ『月の光の届く距離』にもそういう少女たちが登場していました。

心がしくしく痛みます。

 

家が「こども飯」を提供していることで心也も学校で揶揄されて

恵まれないこどもに美味しいごはんを提供することは、立派な志あってのことなのに、「偽善者」と呼ぶ者がいて、ある朝、心也の机に「偽善者のムスコ」という落書きがありました。

心也は、父に「こども飯」やめない?と言ってみると…

母が生前、

人の幸せは学歴や収入で決まるのではなく自分の意志で生きているかどうかだ、と言っていた、と父。

自分の意志でこども飯をやっている…でも心也が不幸になるならやめる、

それが父の意志。

 

心也、暴力父から夕花を救い出す♪

父に頼まれたお使いの前に、夕花のアパートの前を通っていこうとした時、石村に出くわしました。

その時、怒鳴り声とともに一軒の家のドアが開き、夕花が転がり出てきて…

激しい暴力を見咎めた石村が突撃!

その間に、心也が夕花を救い出して…「遠くに逃げたい」という夕花のために、父から預かったお金で切符を買って、以前家族旅行をした龍浦へ向かいます。

 

龍浦と言えば、『エミリの小さな包丁』で登場した漁師町ですね〜^^

 

2人が雨宿りをしていると丘の上からカンカンと金属を打つ音…これも、『エミリの小さな包丁』に登場した大三おじいさんが作る風鈴を作る音。

つながってる♪

 

一夜明けて、最寄り駅に戻ると父や夕花の母、ほか、大勢が迎えに来ていました。

知らないおじさんは、警察の人…警察沙汰になっていました。

父に叱られるかと身構えた心也でしたが、かっこよかったぞ、と褒められた〜^^

お父さん、理解あるっ!

 

臨時休業のお店に戻った時、亡くなった母の日記を見せてくれました。

子供の頃、貧しかった母の夢は

「色んな事情でごはんを食べられない子に無償で美味しいごはんを提供するサービスをすること」でした。

 

父は、母の遺志で「こども飯」を提供するようになったのです…

 

夏休みが終わる前に、夕花は引っ越していって連絡を取れなくなってしまいました…。

 

で、ゆり子さんは…

カフェレストラン・ミナミは、オーナーと、奥さんのゆり子が2人で切り盛りしています。

ここでも、子ども食堂をやっていて、近くのみゆちゃんや彩音ちゃんが食べに来ます。

ある日、ダンプカーが突っ込んできて、店の壁が大破してしまったところ…とある工務店から、台風が近いからブルーシートではなく、ベニヤ板を貼った方がいい、無償で工事を行います、という電話が。

 

訝しむ2人でしたが、ホームページなどで業者が安全な会社と確認して頼むことにします。

営業の高梨萌香も、工事にくる大工さんもいい感じで。

 

ある日、萌花さんはゆりこさんと2人だけの時に打ち明け話をします。

 

ここからが大サプライズ!

 

高梨萌香の勤務する タカナシ工務店の取締役社長は高梨夕花。

37年前に、龍浦へ逃避行したあの夕花が、萌香のお母さんだったのです。

 

ゆり子さんが会いたい、というので、夕花は娘の車で「カフェレストラン・ミナミ」に向かいます。

照れくさいので一人で行きたい、とカフェの近くで下ろしてもらって、龍浦まで一緒に大冒険した心也に再会しに。

 

ラストは、萌香が無口な大工の阿久津さんを連れてきて…阿久津さんは、父違いの弟・幸太でした。婿養子に入って名前が変わっているけれど。

 

夕花が引っ越した後、母は離婚して、幸太を引き取って育てました。

もっと早く離婚すべきだったのよ〜、お母さん。

娘が大変な思いをしてたの。

あの父親のどこがよくて再婚したのかしら? もやもや。

 

工務店の社長になった夕花、大工は弟で、営業は娘で、優しく穏やかな人に囲まれて今は幸せそうな夕花。

 

逃避行中の電車で出会ったおばさんに、「生きてればいいことある?」と尋ねた夕花。

何度も心が折れ、何度も死にたいと思った、と言っていた夕花が幸せになっていて本当によかった。

 

じわじわ温かいものがこみ上げてきます。

 

それにしても、心也と夕花の物語が、37年前のお話だったとは!

 

お話の中に散りばめられた小さなエピソードが、ラストで次々に伏線回収で、お見事!でした。

 

ちょっと生きるのに疲れた人に優しい 心にキラリと輝く言葉がいくつも出てきて、肩の荷が軽くなるような小説でした。