最近、伊吹有喜さんの作品がお気に入りで、これが6作品目です。
NHKでドラマ化され、映画にもなった作品。
本の帯には、
わたしがいなくなっても、あなたが明日を生きていけるように。
大切な人を亡くしたひとつの家族が、再生に向かうまでの四十九日間。
熱田家の母・乙美が亡くなった。気力を失った父・良平のもとを訪れたのは、真っ黒に日焼けした金髪の女の子・井本。乙美の教え子だったという彼女は、生前の母に頼まれて、四十九日までのあいだ家事などを請け負うと言う。彼女は、乙美が作っていた、ある「レシピ」の存在を、良平に伝えにきたのだった。家族を包むあたたかな奇跡に、涙があふれる感動の物語。
BOOKデータベースより
映画化、ドラマ化されるのも頷けます。
不器用な父と娘のもとにやってきたガングロ井本がいい味を出しています
妻・乙美が亡くなって、何をする気力もなく、お風呂も入らず片付けもせず、牛乳だけ飲んで 数日命をつないで来た良平の元に、亡き妻との約束だから、と手伝いに来た井本がいい味を出してます。
物言いは蓮っ葉だけれど、逆にあっけらかんとした彼女の人柄に救われるところが大きい熱田親子です。
娘の百合子はアラフォー。夫の浩之と東京で暮らしていたが、子供ができず夫婦関係がギクシャク。夫には浮気相手との間に子供ができたという。
一人で実家に帰ってきました。
父と亡くなった母・万里子の間にできた百合子を5歳のときから育ててくれたのが乙美でしたが…
母が亡くなるまで、百合子は、育ててくれた乙美に心を開こうとはしなかったのです。
父・良平も、愛情表現が苦手で、父娘して、亡くなった乙美に、もっと優しくしてやればよかった…と後悔の念が。
「四十九日のレシピ」は、母・乙美が 自分が亡くなってから困らないように、と書き溜めた家事や料理、掃除の手順を書いたカードのことなんです。
母の遺志である、四十九日には盛大にパーティを開いて欲しい。という願いを叶えるために、乙美の書いたレシピノートを見て奮闘する父。
乙美が生前ボランティアをしてた、リボンハウス(re-born houseか?)という互助施設から来た、黄色い髪の毛のガングロ山姥メイクの若い女性・井本が 乙美との約束で、四十九日までの間お手伝いに来てくれて…
父や百合子の知らない、乙美の活動ぶりが明らかになっていきます。
明るくてお料理上手な乙美に、美味しいねという言葉もかけられず、彼女のことを知ろうともしなかった父娘。
図らずも、突然お手伝いに来た井本から 知らされました。
力仕事の助っ人に、と日系ブラジル人のカルロス・矢部も仲間入り。
明るくて気さくなカルロスに「ハルミ」とニックネームを付けて 4人はわいわいと四十九日に向けて準備を進めます。
明るい井本とカルロス(ハルミ)が、閉塞感漂う熱田父娘を癒やしていきます。
読み出してから気づいたんですが、表紙に登場している5人が主要登場人物。
左上から ガングロの井本、百合子、スーツ姿の夫の浩之、中央にお父さん、お父さんの足元に、百合子が可愛がっていた亀、その下にブラジル人のハルミ(←ニックネーム)。
それ以外の登場人物は、伯母(良平の姉)、浩之の浮気相手(亜由美)、浩之の母(百合子の姑)、乙美がボランティアをしていた施設の元施設長さんなど。
百合子と浩之問題
百合子は不妊治療にかけていて、気持ちも煮詰まっていました。
そんな時、塾経営の夫の浩之が塾生と浮気。あろうことか、妊娠させてしまいました。
相手はすぐに感情的になるちょっとややこしい女性。
すっかり諦めて、実家に戻ってくるのですが 姑が百合子に戻ってきて欲しがって…
浩之と妊娠中の彼女が一緒にいる姿を見てしまい、ますます心が冷える百合子でしたが、同行していた井本に勇気づけられます。
井本大活躍!
個人的に…百合子の性格、ちょっと苦手かもです ^^;
四十九日は、大宴会希望!の乙美の希望を叶える
僧侶も呼ばずに、みんなでわいわいして欲しい、という遺志を叶えようとするものの、出し物も思いつかず、部屋の壁に乙美の年表を貼ることになりました。
乙美が生まれてから亡くなるまでの年表。
殆どが空白で、家族で過ごした時間がほとんどなく、乙美の過去も動向すら知らない、知ろうとしなかった良平は、今頃になって愕然とします。
乙美年表の模造紙に貼る写真すらなく、リボンハウスで絵手紙を教えていたので、年表に貼る絵手紙を 百合子は東京へ取りに。
乙美が働いていた施設の、元施設長さんが訪ねてきて、彼女の過去を話してくれました。
これで少し、空白が埋まりました。
施設長さんが自身のブログで乙美母さんの四十九日のことを記事に書いたら…
リボンハウスの出身者がわんさかやってきて、百合子たちの知らない乙美の写真をたくさん空白に貼ってくれました。
誕生と結婚ぐらいしかなかった彼女の歴史を、熱田父娘の知らない女性たちが埋めてくれて…
ここは泣けます。
何故、生きているうちに、もっと思い出を作らなかったか、良好な関係を築いて置かなかったのか、と読者のワタシは思ってしまいます。
自分のこととしても、今一度、見直そうと思いました。
乙美が教えたレシピで、教え子たちが作るカレーや肉まんやコロッケサンド。
懐かしい味に、もっともっと、と乙美を思い出しながら頬張る良平でした。
「不器用だから」というのを免罪符にしていてはいけない。
不器用でも、努力して、克服すべきことが大事。
人と人とのつながりは、こんなにも温かいものなのだから。
みんなが帰った後に、良平は思います、井本やブラジル人のハルミは、あの世から乙美が使わした使者なのでは??と。
百合子は実家の庭で水を撒いていて、太陽に背を向けて水を撒いたら現れる虹を見て思います。
父と二人で、虹を見たのかもしれない。
太陽に背を向け、生きることを捨てかけたとき、虹は現れる。そして生きる気力を養い、人が再び太陽に向かって歩き出したら、その背を押してはかなく光に溶けていく。
四十九日のレシピ 262ページ(最終ページ)より
井本とブラジル人青年・ハルミは、二人を救うために来た天使だったのかもしれませんね。