⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【本屋大賞】町田そのこ著「52ヘルツのクジラたち」涙ながらに読了

切なく温かい物語

2021年本屋大賞受賞作。ダントツの1位でした。

今でも近所の図書館に1500人近い方が貸し出しを待っておられます。

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今年の流行語にノミネートされた言葉の中に「親ガチャ」という言葉があります。

「ガチャガチャ」何が当たるかわからない=自分で選ぶことのできないもの。

親も自分では選べない。

酷い親に育てられた 貴瑚と声を出さない少年の物語。

 

主人公の貴瑚は、東京から、大分の海の見える高台の空き家(祖母が昔住んでいた家)にひとりで引っ越して来ました。

口さがない地元の人達の間では、東京からヤクザに追われて逃げてきた風俗嬢、という噂になっているらしい。

…というのは、家のリフォームに来てくれた村中という男が教えてくれました。

 

何故、ひとりでここに住むことになったのか、仕事もしていないのにどうやって生計をたてているのか…読み進むうちにわかってきます。

 

何故、どうなるの?と先へ先へとページを繰る手が止まらず、2日で読めてしまいました。

 

物語の中心は52と呼ばれる男の子

ある雨の日、言葉の話せない少年と出会います。

髪の毛は伸び放題で、ベタベタ、体も臭うし、服も薄汚れ…体にはアザがたくさんありました。

虐待されている…!?

貴瑚は、女の子と間違ってしまうぐらいきれいで華奢な少年が自分と同じ匂いを発しているのを感じ取りました。

それは孤独の匂い。親に愛されずに育った者の匂い…

 

貴瑚がタブレットを貸してあげると、あっという間に操作を覚えたので障害があるわけではなさそうでした。

人の話しは聞けるけど、言葉を発さない男の子は、タブレット目的で毎日やってくるようになります。

そんな時、タブレットでクジラの鳴く声を聞いた少年。

 

52ヘルツで歌うクジラの声。

声の高さが10~39ヘルツの普通のクジラには、52ヘルツのクジラの声は聞こえないそう。

 

一生懸命声を発しても、誰にも届かない、誰にも出会えない世界一孤独なクジラの声を二人でイアホンで聞きました。そして少年は泣きました。

男の子の名前を聞くと、「ムシ」だと、地面に棒で書いてくれました。

ムシと呼ばれる少年の家での扱いが伺いしれます。

貴瑚は、彼のことを52と呼ぶことにしました。

 

家族から暴力を受けネグレクトされ、大学卒業後は、暴力をふるう父の介護に専念させられた貴瑚を救ってくれた人がいたように、

自分もこの少年を救ってあげたい!

それが 自分を救ってくれた人への恩返しになる、と動き始めます。

 

回想場面で、貴瑚の悲惨な過去が…読むのが辛い

母親が再婚し 義父との間に弟が生まれたら…母親は、貴瑚を邪魔者扱い、弟は猫可愛がり。

来客用のトイレに閉じ込められ、ご飯も満足に与えられず、便器の蓋の上で膝を抱えて眠る子供時代を過ごしました。

高校を卒業してやっと就職が決まった、と喜んだのもつかの間、一度も出社することなく、父の介護のために家に引戻されます。

読んでいるだけで胸が痛みます。

 

母親は、どこまでも貴瑚に辛くあたり、義父が難病になった介護も全面的に押し付け、嚥下性肺炎になった時には、父を殺そうとしたのでは?と責めてくるほど。

 

ある日、楽になりたい・・とヨレヨレの状態で夢遊病者のように歩いているところを高校時代の友達の美晴がみつけてくれて…同僚のアンさんにも救われます。

 

アンさんは、面倒なことはすべて貴瑚に押し付け虐げてきた貴瑚の母親に、面と向かって、

「母親だっていうのなら もうこの子を解放してやれ」と言い、救い出してくれたのでした。

 

アンさんとのこと、勤務先の専務、新名主水との関係、そしてすったもんだ…はここでは割愛します、が、貴瑚にそんなときもあったんだ、とちょっとびっくり。

 

携帯まで解約して大分に来た貴瑚を美晴が訪ねてきて

連絡が撮れないことを心配して、美晴が大分まで来てくれました。

住所は、あの縁を切った母親に聞き出してくれたそう。

家に少年52がいる事情を知って 幼い頃に彼をかわいがってくれた人を探しに3人で小倉へ。

そこで 彼の本当の名前は愛と書いて「いとし」と読むことも判明。

愛されずに育ったのに「愛」とは皮肉なことです。

 

愛の心が解けていく過程に涙

少しずつ、すこしずつ、愛(いとし)が貴瑚に心を開いていく様子が、もどかしいような 大切なものプレゼントの包みを丁寧にあけるような 心温まる展開です。

一人ぼっちで誰とも心を交わせなかった「いとし」が 貴瑚や、村中、村中の家族と同じ時間を共有するまでになって 彼の成長が本当に愛おしい。

 

いとしのお祖父さんの元校長(品城さん)は、孫(いとし)を虐待して その後は認知症に。

母の琴美は、どこかの男と出ていってしまいました。

 

いとしは父方の祖父母に後見人になってもらい 貴瑚も、いつかいとしの後見人になれるよう、就職をして準備をはじめます。

 

壮絶な経験をしたいとしを巡って大人たちが 彼の幸せを願って知恵を出し合い動いていて…温かいものがじわ~っと広がる物語でした。

 

現代社会が抱える問題がいくつも散りばめられています

ここには、社会問題になっている虐待やネグレクト、LGBTなど、いろんなネタが仕込まれていて 興味深かったです。

 

52ヘルツの声で歌うクジラの声は、誰にも届かない・・という件は、悲しくて寂しくて電車の中なのに泣けてしまって…。

 

人の温かさが胸に広がる傑作。

人気の程もわかります。

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