最近、よく読んでる寺地はるなさんの作品です。
思い当たる節のある…というか、「あるある!!」と容易に想像がつく内容で面白く読みました。
続きを早く読みたくなる作品でした。
原田マハさんの『丘の上の賢人』を並行して読んでたのですが、途中からそちらをほっぽりだして、『声の在りか』一気読み。
Amazon ★4.3 ★5=54%
日常のあちこちで息苦しさを感じている主人公・希和
小学4年生の晴基の参観日。
保護者懇談会では、ボスママの岡野さんと従者の二人がロの字型に並べられた机の向こう側にいてチラチラと視線を投げてきます。
こちら側にいるのはシングルファーザーで多動児の父、DVを受けていて、生活に困窮している女性。
ボスママ軍団は、マウントを取り、LINEグループから希和をはじき出しました…岡野は、堤さんと希和が話していると「おはよう、堤さん」と差別化してくる嫌な女性です。
こういう人、いそうですね…
実家の母は、大した用もないのに1ヶ月に一度は顔を出さないと機嫌が悪くなるくせ、行っても迷惑そう。
母に対する疑問や不満も湧き上がってくるのに、何も言わず全部飲み込んでしまうのは、
「あんたみたいな平凡な子は、文句を言わず身の丈にあった幸せを大事にすることだ」と母に言い聞かされて育ってきた希和だから。
希和の夫は、希和の話に耳を傾けようともしない、家庭に興味なし、という態度。
夫に聞いてもらいたい心配事や、小さな愚痴も、話しかけても上の空の返事なので、結局また飲み込んでしまう希和でした。
「希和が月給百万円もらってるならともかく、パート代なんてたかが知れてるよな」という失礼すぎる夫の言葉に、「あなただって月給百万円じゃないよね」という反論を…3日後に思いついて悔しい思いをします。
感情を言語化する、ということは大変な労力を要する作業だ、と希和。
でも、それを面倒がっていては何も伝わらないです。
このままでは声を持たない人間になってしまう…、希和はわかっているのに…。
軋轢が生じるかもしれない、口論になるかもしれない、声を上げることは自分の身を斬ることになるかもしれない、でも、理解し合うには、声を届けなくてはいけないのでは?
黙っていては何の解決にもならない、理解しあうには、ときには喧嘩も辞さず言わなければならないときもある、と思っています。
事なかれ主義は、後で大きな誤解になっていくこともあるから。
「アフタースクール鐘」で働くうちに変わっていく希和
駅前の鐘音(かなと)ビルの2階に出来た「アフタースクール鐘」。
1階には、希和の息子の晴基が赤ちゃんのときからお世話になっている鐘音小児科が入っています。
アフタースクール鐘をはじめた鐘音要は、鐘音家の次男。
長男と長女は医者になっていますが次男は…周囲の人たちから「不肖の息子」というレッテルを貼られていて、口さがない人たちの餌食となり、根も葉もないよくない噂を立てられていました。
長女の理枝と希和は同級生、幼い頃の要の事も知っていました。
少しゆるい感じの要だけれど、子供が答えを引き出すまでじっくりと時間をかけて待ってあげたり、希和とは正反対で イライラする希和。
色々噂になっていることを伝えたい!と意地悪な気持ちにすらなるのですが…
いろいろ言う人はいろいろ言いたい人なので他人が何をしていてもいろいろ言うし、いろいろ言われないように自分の行動を制限するのは不毛である
『声の在りか』P36より
…と要は言うのでした。
要は一見、おっとりとしているようで、人を見る目は確かなようです。
アフタースクール鐘が、希和を必要としているのではなく、
「あなたがアフタースクール鐘を必要としているのでは?」と要は言うのです。
そして、希和はアフタースクール鐘で働き始めます。
要の言葉に救われる希和
子育てに自信のない希和は、晴基の態度をいちいち気にしています。
顔色を伺って、やはり息子にかける言葉を飲み込んでしまう…
要に、「うちの子は出ていきたがっている、悪い環境においているからかも」、と言うと、
「自立心が育っているんですよ」と肯定してくれ、希和の心は救われました。
あんなに頼りないと思った要、その態度にイライラさせられていた希和なのに、要にはスラスラと言葉が出てくるのです。
それは、要が希和の話を聞いてくれるという実感があったから。
最終章で、やっと自分の意見を言えるようになった希和
家族で買い物に行ったショッピングモールで、家で食べたい、という夫を制して昼食を食べて帰ろう、と意見を押し通した希和。
気分スッキリ♪
希和は、ボスママの岡野さんと言い合いになって泣いたところを見た夫に見られ、「女ってこわいな」と安易にひとくくりにされて夫の前でポロポロ涙を流して泣きました。
あなたは何もしらない、聞こうともしない、と訴えてから、夫婦の会話は増えました。
思ったことを思った時に口に出すように、心がけて、夫も見聞きした小さな事を話題に提供してくれて。
今まで遠慮して言わなかったこともどんどん言えるようになって、文章の中の希和も明るくなっていくようです。
小児科の大先生は、缶入りドロップの薄荷味が好きだ、とみんなから思われていたのですが、聞いてみると、子どもたちが苦手だろうから、と自分から薄荷味を選んで食べていたのです。
子どもたちは大先生はハッカ味が好き、と思い込んでいます。
本当のことは、はっきり言わないと伝わらない。
勝手に気を回した大先生も、なぜ薄荷味のドロップを食べるのかを話してたら、別の展開になったかもしれないのにね。
特別参観の日の保護者会。
岡野さんの代わりにリーダーになった福岡さんたちがまた意味ありげな視線を交わし合っています。
希和は、毅然と自分の思いを言うことが出来ました。
胸のすく思い!
学校からの帰り道、息子とスキップをしながら、息子と共に自分の成長を感じています。
軽やかなスキップが、希和の心が自由になったことを表しているようで、最後のページ、明るい気分になりました^^