新進気鋭の作家 今村翔吾さんの 直木賞ノミネート作品
直木賞にノミネートされていましたが 今年の直木賞は大島真寿美さんの「渦」に決まりました。
でも 今村翔吾さんの「童の神」も読み応えのある作品でした。 361ページ。
後に563ページの柚月裕子さんの盤上の向日葵が控えております。心して読まねば。
今村翔吾さんの受賞歴は ↓
2016年 - 『蹴れ、彦五郎』第十九回伊豆文学賞の小説・随筆・紀行文部門最優秀賞 受賞
2016年 - 『狐の城』第二十三回九州さが大衆文学賞大賞・笹沢左保賞 受賞
2017年 - 『海を破る者』第九十六回オール讀物新人賞候補
2017年 - 『誰は彼時に咲く椿』第八回野性時代フロンティア文学賞候補
2018年 - 『童神』第十回角川春樹小説賞 受賞
2018年 - 『火喰鳥』第七回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞受賞
2019年 - 『童の神』で第一六〇回直木三十五賞候補今村翔吾 Wikipediaより引用
昨年角川春樹小説賞を受賞されたのですが 満場一致で選ばれたそうです。
朝日新聞の文芸テラスに紹介されていた本です
読みたい本、というのは 本屋大賞、直木賞の受賞作と 新聞広告で気になった本、後はブロともさんのお勧めの本、新聞の読書欄も参考にしています。
この本は 朝日新聞の文芸テラスというコーナーに今年の1月に紹介されていたのですが、今村翔吾さんの経歴が興味深いのです。
時代小説界に彗星の如く現れたニューヒーロー 今村翔吾さん 34歳。
文庫書き下ろしのシリーズ2作を刊行しつつ 初の単行本「童の神」がデビュー2年目にして直木賞候補。
なんと 家業がダンススクール、ということで ダンスのインストラクターをされていたそうです。
そこから華麗なる転身!
「羽州ぼろ鳶組」や「くらまし屋稼業」など デビューから社会のつまはじき者に光を当てる作品を書いてきた今村さん。
子供にダンスを教えていた経験から 「童」の語源を調べたら奴隷の意味でも使われてたことを知って着想したそうです。
童とは
わらべ、とは子供の意味で使われていますね。童の神、と聞いたら 子どもたちを守る神様、もしくは 神様のような人物を描いてあるのか、と思いますが、上述したように、童は奴隷とか 蔑まれた人たちのことでもあったのです。
以前、高橋 克彦著 「火怨 北の燿星アテルイ 」を読んだ時に初めて知ったのですが、都の人たちは 阿弖流為ら奥州に住まい 朝廷に反発する人たちのことを「鬼」と呼んで蔑んでいたんです。
もともと 生まれた時から貴賤はないはずですが 都を守るために民に恐ろしい噂を流して 排除しようとしていたことを知りました。
宝塚歌劇で「月雲の皇子」と言う作品を観た時に 初めて「土蜘蛛」とよばれる人たちがいたことを知りました。
蜘蛛の一種かと思う名前ですが こちらも朝廷に恭順しない土着の民のことを蔑んで呼んでいたようです。
中央(朝廷)が国を治めようとする時に 歯向かう人たちは「鬼」「夷(異民族に対する蔑称)」恐ろしい名前を付けられて民から侮蔑の眼差しを受けるように仕向けたのでした。
童の神 登場人物
童の仲間
桜暁丸(おうぎまる)主人公。越後の豪族の出なるも、日本人離れした体格とルックス。日食と月食が起きた凶日に生まれ落ちた。
袴垂(はかまだれ)正体不明の大盗賊
花天狗(はなてんぐ)検非違使や武官のみ狙う盗賊
畝火(土蜘蛛)(うねび つちぐも)大和葛城山の民
粛慎(みしはせ)丹波大江山の民 鬼
滝夜叉(たきやしゃ)摂津竜王山の民、元愛宕山の盗賊
源高明(みなもとのたかあきら)左大臣 安和の変で九州に流刑
その部下 藤原千晴(ふじわらのちはる)安和の変で隠岐に流刑
朝廷側
源満仲 洛中随一の武官
源頼光 満仲の嫡男
頼光の部下→ 渡辺綱(わたなべのつな)、卜部季武(うらべのすえたけ)、碓井貞光(うすいさだみつ)
安倍晴明 陰陽師にして 天文博士
坂田金時 相模国足柄山出身の民
坂田金太郎 金時の息子 のちに蔵人(くらんど)と呼ばれる
犬神・夜雀 元土佐の民
本の年表には
平安時代
794年 平安遷都
935年 平将門の乱 (平将門の娘・皐月=妖術使いの滝夜叉姫が登場します)
969年 安和の変
973年 安倍晴明 天文博士に
975年 皆既日食
1017年 藤原道長 太政大臣に
1086年 白河上皇 院政開始
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桜暁丸、波乱万丈の物語
平安時代とは 十二単で和歌を詠み…という雅な時代というイメージがありますが…
実際には日本という国はまだ不安定で 朝廷は、力を持つ豪族が蜂起するのを恐れていたのですね。
平将門が、東国で力を持ち、自らを「新皇」と称したことで 朝廷は力のある民を恐れ、鬼と呼んで蔑み、敵視していたようです。
桜暁丸は越後蒲原の豪族・山家重房の嫡男。実は母は何処からか小舟で流れ着いた黄金色の髪に白い肌、堀の深い顔立ちに緑色の目をした長身の女性だったとか。その母の血が桜暁丸にも流れていて 化け物とまで呼ばれてしまうのでした…
文武の師、僧・蓮茂のすすめで比叡山延暦寺に行くも、源満仲と通じていた僧に謀られて、危うく命を落とすところでした。
桜暁丸は 朝廷の武人たち 源満仲、頼光、渡辺綱、卜部季武、碓井貞光ら 腕の立つ者と何度も刀を交わしては辛くも生き延びて行きます。
都では 桜暁丸と藤原保輔は 貴族の家に盗みに入り、貧しい民に盗んだものを分け与える「袴垂」と呼ばれ恐れられた怪盗でした。が、保輔は貴族の身、いつしか上部に知れて追われる身となりました。今生の別れの際に聞いた 「大和へ行け。土蜘蛛という民がいる」と言う言葉に従い 葛城山へと向かいました。
葛城の毬人、息子の欽賀、星哉らと共に過ご下様子、朝廷軍との戦いが活写されています。
戦のシーンが多く たくさんの血が流れ 読み進むのが辛い箇所もありましたが
西は丹波の大江山から 東は大和の葛城山 満身創痍でも馬で駆け抜ける力強さ、地形を活かした戦法、一瞬の油断もできない息詰まるような戦闘は 頭の中にドラマが流れているような 躍動感あふれる描写で見事でした。
著者の弱者への視線が温かい
勝てば官軍、という言葉どおり 勝って政権を取ったものが正義、それに歯向かうものは悪、敵、とみなされます。
朝廷が日本を平らげるために、勢力を持つ民をわざと蔑み、それは呼称に限らず 圧政をしいて民を苦しめたりしていましたが それは歴史の大きなうねりの中では見過ごされがちな事実です。
歴史物、といえば 江戸時代か戦国時代のものが多く 平安時代やそれ以前のものは少ないです。
今、童と総称された 鬼、土蜘蛛、夷、犬神、滝夜叉、夜雀…などと呼ばれた人たちが 自分たちが自分たちの土地で生きる権利を主張しただけなのに 苦しめられた事実が詳らかに書かれていて 胸が痛みました。
鬼というのは おとぎ話で「正義」に対する悪の象徴というだけでなく 作為的につくられた呼称だったのです。
同じ血が流れる人同士なのに蔑んだり 家柄や地位でリーダーをきめたりすることがいかに愚かしいか、改めて気付かされました。
付箋を貼ってなかったので 書き記せませんが 胸が熱くなる 素敵なセリフがいくつも出てきます。
この本のような激動の時代を経て 今 日々平和に暮らせることのありがたさをしみじみと感じさせられました。
2019年11月3日 追記
著者の今村翔吾さんが 私が読書記事をブログアップしたツイートに、いいね❤とリツイートをしてくださいました♪ ありがとうございます!!
こんなTwitter・ブログを見に来てくださって嬉しいです^^
ブログを更新しました! 今村翔吾著 童の神を読みました♪ - happyの読書ノート https://t.co/llhdq0H5cz
— happy (@chocodash2) October 31, 2019
羽州ぼろ鳶組シリーズも読みたいと思います!