happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

水墨画の世界が鮮やかに描かれた「線は僕を描く」読了♪

 毎年、1月に、その年の本屋大賞ノミネート作品が発表されるので、興味のある作品を図書館に予約しています。

2019年6月に刊行された 砥上裕將(とがみ・ひろまさ)著「線は僕を描く」もそんな一冊。

そんな本屋大賞の2020ノミネート作品にして メフィスト賞(講談社が発行する文芸雑誌『メフィスト』から生まれた公募文学新人賞)を受賞。

 水墨画という「線」の芸術が、深い悲しみの中に生きる「僕」を救う。第59回メフィスト賞受賞作(「BOOK」データベースより)

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 本の帯には

両親を失い、空白を抱えていた「僕」は、紙に「線」を引く芸術を一から学び、練習を重ねることで、やがて失っていた自分を取り戻していく。生きている瞬間を捉えようと描き続け、自らの美をつかむ。現代の青春求道小説として、力強く胸に迫る作品だ。

吉野仁(書評家) 

朝日新聞2019年9月28日

 

自分用記録につきネタバレあります、ご注意ください。

 

 

 

 

青山霜介は、大学1年生。

2年前に両親を交通事故で亡くして以来、心の中に空虚なガラスの箱を作り その中に閉じこもるような日々を送っていました。消去法で選んだ大学に入ったばかりの頃・・

友人のツテでアルバイトに来てみたら、地下駐車場から、ビル内の展示場にパネルやパーテーションを運ぶ力仕事。聞いていた話と違う…と一緒に来ていた仲間が次々に遁走。真面目な霜介だけが残されました。

急遽 屈強な体育会系の男子に来てもらい、事なきを得て、皆帰った後 展示会場に残った霜介が出会ったのは…ひとりの老人。

それが篠田湖山、大芸術家にして 水墨画の巨匠。

そうとはしらない霜介は、巨匠の前で、聞かれるままに展示されている水墨画についての感想を述べました。

めったに弟子を取らない湖山先生が自らが青山霜介を「弟子にする」と宣言し周囲を驚かせます。

霜介の内側の空虚が水墨画への情熱で満たされていきます…

 

兄弟もいない霜介が両親を亡くして 突然ひとりぼっちになってしまった。

心を閉ざして ぼんやりと流されるままに大学生になって…積極的になにかに取り組むわけでもなく 惰性で生きているような 硬い芯の鉛筆で描いたような 印象の薄い霜介でしたが

 

水墨画と出会い、湖山先生の言葉に出会い、師の友でありライバルでもある翠山先生にも認められ、湖山先生の孫娘の千瑛(ちあき)、湖山先生の弟子で、いつもガテン系の格好をして会場設営や庭師の仕事をしている西濱湖峰、静かな佇まいの斉藤湖栖ら、若き絵師との出会いが、霜介が「生きる」事に貪欲にさせていったように思います。

 

水墨画は線の芸術。水墨画との出会い(線)が、僕(霜介)を 僕たらしめたのだな、と タイトルに納得しました。

 

この作品は、水墨画について何も知らない霜介が、墨を擦るところから教わり、水墨画とは、というのを知っていく、それを読者も共に体験できるのがいいですね。

水墨画の四君子(蘭・竹・菊・梅)とは…基本の筆使いを学ぶ為のお手本なのだそう。

書道で「永」の字に、基本の筆使いがすべて入っているのと同じですね^^

 

湖山先生や斉藤さん、千瑛が水墨画を描く様子が活写されていて、想像しながら読むのが本当に楽しいです。

 

この本の著者、砥上裕將さんは、2019年、この作品で作家デビューされましたが、水墨画家という肩書もお持ちなんです。

だからこそ 水墨画を描くシーンに説得力があり、迫力があるのだと思いました。

自らの体験から生まれた言葉は力強いです。

 

本屋大賞と直木賞を同時受賞し、映画化もされた恩田陸著「蜜蜂と遠雷」。

あの作品に通じるものを感じました。

「蜜蜂と遠雷」を読んですごいな、と思ったのは、ピアニストの超絶技巧の活写であり、その音色を表現する言葉の巧みさでした。

 

同じ芸術でも、こちらは美術ですが 真っ白な画仙紙に、最初の逆筆を入れるところから、どんどんと線が延びていく様、墨のにじみ具合、身体を使って 筆を運ぶ、そんな身体の動きも脳裏に映像として結んでいくのが楽しいです。

 

花卉画(植物画)は、じっと花を見て 花と対話するように描いていきます。

水墨画を見ると、分かる人には 描いた人の性格までわかってしまうのだそうです。

 

白黒の世界なのに、薔薇の絵に赤さを感じさせるという千瑛の水墨画…。

水墨画は決して写実的ではないけれど 心象風景がそのまま反映する絵だから、霜介は、湖山賞に向けて 菊の花をただひたすらに眺めて 花と対話し 花に教えを請うて 最後は一心不乱に描きました。

 

表彰式の件は、涙なくしては読めません…

 

幼い頃から 巨匠の祖父に教わってきた千瑛が 予想通り湖山賞を手にしました。

が、今まで受賞者がいなかった 翠山賞、これは特別賞にあたるものという設定ですが 霜介が受賞しました。

何も知らないままに飛び込んだ水墨画の世界で 巨匠らから未来を嘱望されるという栄に浴した霜介。

 

今まで 両親を亡くしたことに固執して 空虚な人生を送っていた霜介が 最後に言います。

「僕は満たされている」

 

「君が生きる意味を見出して、この世界にある本当に素晴らしいものに気づいてくれれば それだけでいい」(本分より)

湖山先生も、戦後 霜介のように心が空っぽになっていた時があったのだそうです。

霜介の才能を見出し 手を差し伸べてくれた 湖山先生との出会いが人生を大きく変えてくれたんですね。

 

ひとりぼっちだった「僕」がたくさんの笑顔の中で佇んでいる、なんて幸せなことでしょうか。

 

読後爽やかな小説でした。おすすめです!!

 

◆外部リンク

線は、僕を描く(著:砥上裕將)公式サイト│講談社

こちらのHPに著者が水墨画を描かれている動画があります。よろしかったら御覧ください~♪