小川糸さんの作品は、デビュー作の「食堂かたつむり」(2008年)と本屋大賞ノミネート作品の「つばき文具店」(2016年)、続編の「キラキラ共和国」(2017年)、「ライオンのおやつ」(2019年)の4冊を読みました。
特に、「つばき文具店」と「キラキラ共和国」の世界感が大好きで愛おしく、心温まりました。
図書館の書架で見つけた「さようなら、私」。
小川糸さんの本だから、と手に取り、Amazonでの評価を見てみると、明らかに、★5の割合が少なく、レビューも熱の低いものが多かったので期待せずに読み始めました。
Amazon評価 ★4.1
世間の皆様の評価も納得
オムニバス、3作。
- 恐竜の足跡を追いかけて 140ページ 2011年
- サークル オブ ライフ 76ページ 2011年
- おっぱいの森 54ページ 2008年
恐竜の足跡を追いかけて
一番長いけど、一番つまらなかったです
中学時代の同級生が自殺した。お別れ会のために帰郷した私は、7年ぶりに初恋の相手ナルヤに再会する。昔と変わらぬ笑顔を向けてくれる彼だったが、私は不倫の恋を経験し、夢に破れ仕事も辞めてしまっていた。そんな私をナルヤが旅に誘い……。会社が嫌い、母親が嫌い、故郷が嫌い。でも、こんな自分が一番嫌いだった。だから私は旅に出ることにした。
「BOOK」データベースより引用
冒頭の一文がキャッチーですけど、思い出話に出てくる程度。
内容のほとんどは、帰省先で昔の友人のナルヤとの再開から、彼(ナルヤは日本人とモンゴル人の混血)の故郷モンゴルで一緒に旅をするお話。
モンゴルでの暮らしや景色の描写が多く、心にきらりと光るような言葉もなく。
ただ、モンゴルとはこういう所、とわかる日常の会話が流れている…
主人公の美咲は、編集者希望で、アルバイトから正社員にもなれたのに、なったとたんにライバルに差をつけられてあっさり辞めてしまった。
そんな傷心の美咲にナルヤは、
もし自分に行き詰まったら、もっと広い世界へ出て、いかに自分がちっぽけな存在であるかということを知るべきだ、と言います。
自分に限界を作っているのは自分自身なんだ。(P114)
心に響いた言葉は、これぐらいかな?
取材旅行に行かれて、ただモンゴルはこんなところ、と言う著者のモンゴル旅行体験記、みたいな小説でした。
本の後ろに風の旅行社(ネパール、モンゴル、チベット文化圏専門旅行社)への謝辞が載っています。
モンゴルへ、執筆のテーマを探しに行かれたのでしょうか…
サークル オブ ライフ
こちらも、著者がカナダに旅行して題材を拾ってこられたような作品。
主人公・楓は、カナダ・ソルトスプリング島のヒッピー村で生まれました。
日本人の母と、何人の誰かもわからない父のもとに。
その村で、母は皆の母で、楓もみんなの子供として集団生活を送っていました。
ある時、コミュニティの男に、遊ぼうと誘われついていくと、森の奥で…
恐ろしくて逃げ帰って母の胸にすがりつこうとしたら、母は無造作に楓を払い除けて横にいる男にしなだれかかって、助けてはくれなかった…
何度か辛い体験をした後、自力でヒッピー村を脱出して…母の妹の春子おばさんの尽力で日本に来て、きちんと暮らすことができたのでした。
母と同じ血が自分の体内を巡っていると思うだけで苦しくて、母のことを「あの女」と呼んでしまう楓。
カナダと母とは縁をきりたいと思っていたのに…楓にカナダの旅本の取材の仕事が舞い込んで…カナダに行く羽目に。
春子おばさんから聞いた、ヒッピーの島、ソルトスプリング島へ…
母は帰国後、ホームレスになっていました。
行き倒れになって、ホスピスに入ったものの程なくして亡くなりました。
母の形見、母が大切にしていた古びたキャリーバッグを開けてみると…幼い頃楓が書いた「おかあさん だいすき」の手紙。
母が宝物のように最後まで大切に持っていたのは生き別れた楓からの手紙、これを心の支えに生きていたのだと思うと切ないです。
鮭が生まれた川を遡上するように、楓もまたカナダに来たことで、何かが吹っ切れたのでした。
幼い頃にいたずらをされて性的なことがトラウマになって、恋人との結婚にも踏み切れずにいたのに、新しい気持ちで一歩踏み出す勇気をカナダでもらったのでした。
タイトルの意味に納得。
おっぱいの森
なんだか変な設定^^;
おっぱいを吸わせてあげることで癒やしを差し出すお商売の話。
おかまの店長がすごくいい味をだしていて、楽しく読めるのですが…。
三作とも微妙な作品でした・・・
小川糸さん、デビュー作の「食堂かたつむり」は話題になり、海外の賞も受賞されましたが、次に「ツバキ文具店」「キラキラ共和国」で再ブレイクするまでの間の作品。
書くことに煮詰まっておられたのかしら?
モンゴルやら、カナダに取材旅行って??と深読み。
「さようなら、私」のタイトルから、もっと感動的な新たな自分へ生まれ変わるようなお話かと思って…期待しすぎでした。
感動されてる方もいらっしゃると思いますが、私には読書時間がもったいなかった…という感想。