町田その子著 本屋大賞受賞作の『52ヘルツのクジラたち』がすごくよかったので、受賞後の第1作目となる『星を掬う』を読んでみようと思いました。
こちらも、本屋大賞2022年 10位に入っています。
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千鶴が夫から逃げるために向かった「さざめきハイツ」には、自分を捨てた母・聖子がいた。他の同居人は、娘に捨てられた彩子と、聖子を「母」と呼び慕う恵真。四人の共同生活は、思わぬ気づきと変化を迎え――。
中央公論新社HPより引用
自分の不幸は、全て母親が原因??
冒頭から読むのが辛いシーンが続きます。
千鶴の元へ、ようやく離婚した元夫・弥一がなけなしのお金をむしり取りに来て、拒否すれば暴力をふるいます。
千鶴はラジオ番組の企画でお金欲しさに応募した、ひと夏の思い出を綴った文章が準優勝して5万円を手に入れました。
その5万円も、弥一に持って行かれないよう、勤務先のパン工場のロッカーに入れておかねばなりません。
ある日、ラジオ番組プロデューサーから、あなたに会いたがっている人がいる、と電話がかかってきました。
自分を捨てた母と暮らしている女性で、「お母さんが若年性認知症を患っているからひと目会わせてあげたい」のだといいます。
その女性は、母と千鶴の思い出をラジオで聞いて、投稿主は、この母の娘に間違いない、と確信したのだそう。
プロデューサーの野瀬と、母・聖子と暮らす恵真と3人で会うと、弥一に殴られて腫れた千鶴の顔を見て、すぐに警察に行こう、と恵真は言います。
大ごとにしたら、余計にひどいことされる、と拒む千鶴。
それならばうちに来ない?と恵真が誘ってくれました。
こうして、千鶴の実母・聖子、聖子を母と慕う恵真と娘に捨てられたバツイチの彩子さんの3人が住む元工場の社員寮「さざめきハイツ」に、DVから逃げ出した千鶴が加わって、それぞれの思いが交錯していきます。
千鶴は、今の自分の不幸を全部自分を置いて出ていった母・聖子のせいにしていました。
そんな母を、実母の用に慕う恵真は、とても美しく華やかで、優しい女性。
母の面倒を見てくれている恵真にすら、悪態をつく千鶴は、自分は不幸だ、母のせいだ、と自分のことしか見えていない井の中の蛙、悲劇のヒロインに思えました。
恵真だって、幼い頃に両親を事故で亡くし、親戚に引き取られたものの、継子いじめにを受けていたという過去もあり、男性恐怖症もあって生きにくい人生のはずなのに、
そんな風情は微塵も見せず 笑顔で明るく、人に優しい。
同居のバツイチ彩子さんは、娘を出産した時から、ボタンの掛け違いがあり、同居の姑との関係がこじれ、離婚して家を出ました。
ラジオ番組に応募した、小学生の頃のひと夏の甘い思い出の中にいる母と、目の前の52歳にしては年老いたおばあさんに見える母とのギャップを埋められない千鶴。
母に捨てられた、と恨んでいた千鶴は、母親に謝ってもらいたくて、優しくされたくて再会したのに、現実は厳しかった。
千鶴の自分の不幸は母のせい、は不愉快
自分の不幸や、失敗を誰か(なにか)のせいにするのは楽で、責任逃れ。
主人公の千鶴が、DV夫と結婚してしまったのは気の毒に思います、これは自分のちからではどうしようもないことですから。
それでも、毎回ビクついて暮らし、月に一度千鶴の給料無心目当てでやってくる暴力夫から逃げ出すための努力はしていないような…
ラジオ局の野瀬さんがシェルターを紹介しようか?と言ってくれるまで考えもしてないのは、呑気すぎる気がして。
千鶴を気の毒と思う反面、とても嫌味な物言いをするのが、自業自得かも?と。
幼い頃に両親と死に別れ千鶴の実母をママと呼ぶ恵真は、千鶴にもよくしてくれているのに
親を知らないって、逆にいいかもしれないですね。失望することも、傷つけられることもないから。《中略》 あなたにとってはさぞかしいい母親なんでしょうね。うつくしいっていいですね。無条件で愛されて、しあわせだ 《中略》わたしからすれば傲慢でしかないんです。何もかも持っている恵まれたひとの、善意という名の自己満足。そんなの、大嫌い。吐き気がする…!
『星を掬う』P134 より引用
なんという無神経な言葉…
人はそれぞれ、自分の人生を背負って生きています。
いいこともあり、悪いことがあっても、それを表情には出さず生きているのに…。
恵真の次は、母親に対する悪態。
親に捨てられた子どもがどんなに歪んでそだつかなんて、想像もしてなかったんだと思う。そして、わたしがいまどれほど息苦しいかなんて、興味もない。最低なひとだ。親の責任から逃げ続けるろくでなしで
『星を掬う』P135〜136 より引用
そこに登場するドクター・結城の言葉が爽快!!
おやまあ。十代のガキのセリフかな、と割って入り、
不幸を親のせいにしていいのは、せいぜいが未成年の間だけだ。(『星を掬う』P137 より引用)
そうだ、そうだ、結城さんの意見に100票。
もし不幸だとしても、こんな不幸から抜け出してやる !!一生不幸でたまるか!!という気概がないんですね〜 千鶴には。
不幸は母親せい、で安心して 母親が悪い、で完結してるから、前に進めない。
作者がわざと嫌な面を全開にするキャラで描いているのでしょうけど ^^;
千鶴という女性を好きになれなかった…
命をかけて産んだ子どもに裏切られ、頼られる彩子さん
妊娠中に生死にかかわるほどのひどい妊娠中毒症にかかり、産後も体調が優れなかった彩子をみて、姑が赤ん坊を取り上げました。
それからずっと家族からは怠け者の烙印を押されて、一人娘の美保は、おばあちゃん子に育って、母を馬鹿にするような娘に育ち…結局夫とも離婚する羽目になってしまったそう。
それなのに! 17歳で望まない妊娠をした!と家を飛び出して美保が転がり込んできます。
彩子さんが甘やかすのをいいことに、言いたい放題、やりたい放題。
ぜーんぶぜーんぶ、あ、ん、た、の、せ、い、だ!
自分のことを棚にあげて、彩子さんに悪態をつく美保。
千鶴は、美保がしていることは、自分が母にしていたことと同じだ、気づきます。
自分の至らなさも、弱さも、「母に捨てられた」から仕方がない、と免罪符にしてきた千鶴。
結城さんが言うように、十代で卒業しなければならなかったのに、とわがままな美保を客観的にみて、ようやく気づく千鶴でした。
美保の調子に載った無神経なインスタ投稿で、千鶴が知られたくない居場所を知られてしまう、という大失態も。
ここも、かなり読むのに力がいりました ^^;
ムカムカ。。。
若いせいか、千鶴の母・聖子の認知症はすすんでいき、深夜徘徊やお漏らし、弄便なども出てきて。
尿、下痢便を漏らしてしまった母をお風呂場で洗ってあげる件は、リアルで、家族だもの、面倒を見る!という恵真の意見を却下して、母・聖子は自ら施設に入ることを決意します。
母は、千鶴にいいました
私を捨てて、と。
「こんな姿を晒したくないの、娘に。」
「捨てて」という言葉を使われてますが、それは違うのでは?と思いました。
母が子どもを捨てるとか、子どもが親を捨てるとか「捨てる」という言葉が安易に使われている気がしました。
こんな姿を娘に晒したくないから、私は自分の意志で施設に行く!
でいいと思うのですが。
娘が捨てられた、という思いはあっても、私を捨てて、はないかな…
認知症の介護は生半可ではない、お母さんはわかっていたんですね…
施設に入ることはドクター・結城との間で取り決めてあったことだ、と。
恵真は言いました、
「あたしの人生は、あたしのものだ。誰かの悪意を引きずって人生を疎かにしちゃだめだよね」(『星を掬う』P317 より引用)
家族だけでなく、人間関係、いろんな柵や、ルールの中で、守るべきものは守り、自分を見失わない意志を持って生きていたいな、と思った次第。
星を掬う、の「星」とは、母・聖子のおぼろげな記憶の中にある煌めく美しい思い出のことです。
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