⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【本屋大賞ノミネート作品】凪良ゆう著「滅びの前のシャングリラ」読了

全国書店員が選んだ いちばん売りたい本 「本屋大賞」第7位、

紀伊國屋書店スタッフオススメのベスト30「キノベス!2021」の第1位。

表題作他 全4編の連作短編集です

地球滅亡一ヶ月前の世界に生きる4人の、一人称で語られる物語。

  • シャングリラ
  • パーフェクトワールド
  • エルドラド
  • いまわのきわ

 表題作「滅びの前のシャングリラ」の主人公と 後の物語の主人公がつながっています。

4人の視点で語られる物語がゆったりとつながって 温かいものが流れ出します。

4作中3作は、主人公の名前と年齢、今日人を殺した…という書き出しで始まっているけれどミステリーではないのです。

滅びの前の「滅び」とは? 

 

自分用の読書記録ゆえ

⚠ ネタバレあります、ご注意下さい。

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シャングリラ

江那友樹、十七歳、クラスメイトを殺した、で始まる物語。

彼は高校のクラスメートに「パシリ」をさせられ、時として暴力を受けたり、皆の前で辱めをうけたりしていました。

スクールカースト最底辺。

耐える日々は辛い。

だから友樹は、その辛さを逃がす方法(思考法)で、なんとか自分を保っていましたが

耐え続けているといつかコップがいっぱいになった時…冒頭の文章がつながるのかと思いきや…

 

友樹のひとり語りは、現実では耐え難い苦痛だと思うのですが、ライトな語り口で深刻さは感じにくいです。

ここの読みどころは、母と片思いの藤島さんとのつながりかな、と思います。

 

生まれたときから父は居なくて、母が1人で友樹を育ててくれました。

いじめられっ子の優しい友樹からは想像もつかないような強くて言葉の荒っぽいヤンキーな母。

なんで自分の子がこんなに弱いんだ、やられたらやり返せ!と包丁を紙にくるんで持たせるような母でした。

 

こんな世界、なくなればいいのに、と思っていた友樹に朗報、小惑星が地球に衝突して、あと1ヶ月で人類が滅亡する、というニュースが!

それが「滅び」だったんですね。

 

小学校の時から片思いの藤森さんがLocoというアーティストのライブを聴きに、ひとりで東京に行く、というので 混乱する東京の治安から、そして彼女と同行する友樹いじめの主犯・井上から彼女を守るため 密かに友樹も東京へ。

 

案の定井上は彼女に襲いかかり、陰で見ていた友樹が飛び出して、間一髪のところで

助けました。井上の背に母から渡された包丁を突き立てて…。

 

東京駅に向かうと混乱の中で、井上に再開。生きてた??

殺人犯になったと思ったのに、未遂だった…と少し安堵したら、井上が逆襲開始!

真っ向勝負したら負けるに決まっている友樹、あわや!のところで井上が吹っ飛んだと思えば、ヒーローのように現れたヤクザまがいの男。何者っ?

パーフェクトワールド

このヤクザまがいの男が目力信士 40歳。

毒親に育てられ、愛情を知らず、己の運命を呪って生きてきた男。

学校も早々に辞めて、居場所の無いものが集まるチンピラグループに助けられて生きてきたがほんもののヤクザではない。

そんな彼に、世話になった男から、暴力団抗争の敵の組長を殺ってほしい、と頼まれて。任務遂行。

 

20年前に愛し別れた静香という女性に会いに行きます。

彼女も昔はワルグループにいた仲間、相変わらず男勝りで荒っぽい。

彼女のスマホに息子から「同級生を殺した」とLINEが…

東京に迎えに行くから…(広島から!!)

盗んだ車で神戸まで行き、渋滞にかからず走れるバイクと交換して東京へ。

品川駅で難なく友樹と会えて(さすが小説!)、友樹に襲いかかる高校生を飛び蹴りして一件落着。

友樹を運んだ病院で、試験管の液体を撒こうとしていた宗教団体「波光教」の男と死闘を繰り広げる信士。

その中、静香は友樹にあれがおまえの父親だ、と言ったようで…「お父さん頑張れ!」と叫びます。

信士は、友樹の声援もあって勝利、病院ロビーの人たちを救って一躍ヒーローになりました。

 

この章では、友樹の母、自分を助けてくれたヤクザ風の男の生き様とその男が友樹の父であったことが描かれています。

地球滅亡まで1ヶ月、街は混乱を極め、無法地帯になっているようすもリアルに描かれています。

 

エルドラド

友樹の母・静香の語り。

信士と別れた後、どうやって生きてきたのか。

藤森雪絵さんは、代々医者の家で豊かに暮らしているけれど、実は養女。

彼女が養女にもらわれてから、両親に、本当の娘が誕生し「真実子」と名付けられました。ふたりを分け隔てなく育ててくれていると分かっていても孤独を募らせていたようです。

「うちにくる?」という誘いにのって、友樹の家族の仲間入りをした雪絵は、ひととき、本当の家族のように、心安らぐひとときを過ごしました。

彼女が心酔するアーティストLoco。東京でのライブは中止になったけど、インスタで大阪で小惑星が衝突する日にライブをすると知り、大阪へ。

 

盗んだ車で 友樹と信士、静香、藤森さんの4人で上京の途中で食事をしたお蕎麦屋さんへ。

蕎麦屋の夫婦はすでにハートのピアスの男に殺されていたのを知っていたので、しばらく空き家にあがりこんで4人での暮らしは 「波光教」が火炎瓶を投げ入れてきたり、と波乱もありました…。

 

衝突4日前。

道路は事故車と死体でまともに車では走れないのでライブ会場に徒歩で向かう4人。

ゴミもトイレも処理されず、悪臭が漂う中、4日分の食料を入れたリュックを背負って歩く。

またも波光教の信者が突撃してきます、

「おまえたちのような馬鹿な連中が幸せな家族として死ねるのは教祖様のおかげ」。

 

私達は「幸せな家族」に見えるの?

静香は今まで求めていた「幸せな家族」を地球が滅びる寸前に手にしたんだ、と実感するところが胸熱です。

 

いまわのきわ

藤森雪絵が心酔しているLocoこと 山田路子の物語。

 

地域では有名なロックバンドで活躍したけれど全国大会では実力のなさで敗退。

バンドメンバーの中で路子にだけ芸能界デビューの声がかかります。

ロックをやりたいのに、アイドルとして活動させられ、すぐに人気も落ちてグループは解散。

それでも、夢を諦めず、夜の世界で働いている時に敏腕大物プロデューサーに出会い、Locoとして戦略的に売出し人生の頂点を味わいます。

 

ここの件、「M 愛すべき人がいて」平成の歌姫・浜崎あゆみを描いた小説を彷彿させます。

 

頂点にいるからこその孤独、いつか頂点から転がり落ちるであろう不安、自分を抜こうとしてるものへの嫉妬、焦り、プロデューサーへの不信感。

「夢を追っていたときのほうが楽しかった…」

本当にそう。勢いがあります、夢を追い続けることが生きる原動力になるんですね~♪

 

栄誉もお金も手に入れたけれど、キリキリと神経を蝕んでいくようなできごとに追い込まれ…

Locoは、プロデューサー・イズミマサヒロと昵懇だったにもかかわらず、入浴中のイズミの頭にシャンパンボトルを振り下ろした…

 

大阪から父と元のバンドメンバーのポチが3日かけて迎えに来てくれて、

「路子のツアーファイナルを大阪でやろう」といいます、私、人殺しなのに、いいのかな?という彼女に、後少しでもうすべて終わる、もう誰も裁けない、という言葉に後押しされ、家の近くの公民館を会場にしてライブをすることをインスタで発表。

 

いいコメントも、憎悪のコメントも書き込まれる現代のSNSも描かれています。

Twitterでトレンドの1位になって喜んだのもつかの間、事務所が買ったアカウントも多かった、と裏事情も知らされて…。

イズミは、「仕掛ける側は何も気にしなくていい。釣られる層向けの宣伝なんだ」。

なるほど~と納得。

戦略的な臭いがする発信もあるな、と思っていたので腑に落ちて面白かったです。

 

小惑星衝突の日。

公民館の2階の壁を壊して作った仮設ステージで、避難民とファンの前で歌うLocoこと山田路子、素顔のLocoが歌います。

午後三時、爆発音と巨大な光。

バンドのメンバーは袖にいた家族と抱き合って演奏は止まっています。

 

悲鳴が上がる中、どんなスポットライトもかなわない、山田路子のステージを照らす光だ、と路子は 1人アカペラで歌いだすと…

仲間の音が、ドラムがベースとギターが追いかけてきて、最期の時まで歌い続けようと命を謳う路子。

 

明日死ねたら楽なのに、と思っていた路子が、もう少し生きてみてもいい、と希望を見出せたラストがじわり、と響きます。

極限状態で何を思うか、人間が問われます

4つのお話は、どれもちょっと残念な人生を生きていたり、生きづらさを感じている人たちが登場します。

 

もうすぐこの世界の人たち全員の人生が終わるというときに、それぞれがどう考えるのか、どういう気持でその時を迎えるのか興味深いです。

 

4編の作品それぞれのラストに救いや希望があります。

家族の温かさ、本当の家族でなくても、信頼できる人との絆、そういった温かさが4編の根底に流れていて、読まされました。

 

本屋大賞にノミネートされたのも頷けます。