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【一穂ミチ】パラソルでパラシュート|随所で声出して笑ったけど、意外と深い話

2022年本屋大賞ノミネート・第165回直木賞候補作の「スモールワールズ」を読んで、その後に書かれた作品も読んでみようと、

パラソルでパラシュート」を読みました。

 

軽妙な会話、くすっと笑わされる比喩、漫才のようなツッコミとスルーがこれまた面白い。

 

食事や家事のために一旦本を閉じても、続きを読みたくてウズウズしてしてしまう、こんな本は久しぶりでした。

 

軽いはずが、後半は、亨の過去がずしりと胸に迫ります。

 

ぐるぐるさんが出るシェアハウスの人たちは温かくて、それでいて過度に干渉してこない心地いい距離感の人間関係…楽しそうです。

Amazon評価 ★4.5

 

⚠ネタバレあります、ご注意ください

 

 

主人公の柳井美雨がコンサート会場で知り合った矢沢亨は、お笑い芸人でした。

亨にもらった茶封筒にはライブチケットが入っていて、ライブは…お笑いのライブでした。

会社で一緒に受付嬢をしている後輩の斉藤千冬と観に行き、打ち上げに参加して親しくなり…深みにハマって?行くのでした。

 

亨が住んでいる、シェアハウスの住人は、女ピン芸人の郁子さん、

亨と同期でコンビ「寝汗」のボケ担当のじゃがいも頭の浜島誠、通称マコ 

亨と同期「ニャンドゥティ」のツッコミ担当、マッシュルーム頭の宇佐美無限、通称ネバー 

皆で焼肉をして花火で遊ぶ件は、映像を観ているように面白くて…第一章の終わりは爆笑してしまいました…^^

 

ボケツッコミが心地良い。

 

第二章では、亨の相方(コンビ名「安全ピン」)の弓彦くんが登場。

弓彦は、シェアハウスに亨が連れてきた美雨が居ることが気に食わず、冷たくあしらうのでした。

「自分、ほんま何なん」 あ~これ、松ちゃん(ダウンタウン)が言う感じ、ね。

 

「安全ピン」のネタは、亨が女性・夏子になってコントを演じるというもの。

漫才に出てくる女装は、いかにも女装してます風が多いけれど、亨が演じる夏子は、仕草もメイクもとても美しく、ガチ恋するファンも多いのでした。

絶対に「モデル」がいる!

ドラマ「コントが始まる」味がありました

菅田将暉主演の「コントが始まる」、観てました。

お笑いトリオ「マクベス」の3人がひとつ屋根の下…というかマンションの一室をシェアしてネタ作りの日々。

10年たって売れなかったら解散する、と決めていて…

 

「パラソルでパラシュート」でも、実家が造り酒屋の「ニャンドゥティ」のネバーさんは漫才大会で優勝できず、家業を手伝う、と奈良に帰っていきます。

 

芸人さんたちは、自分の人生の線引をどうするか迷っていました。

どこまで演り続けるのか、どこで辞めるのか、自分自身に問うては悩んでいました。

 

そんな芸人さんと、受付嬢は30歳までと決まっている会社にいて、退職まであと1年しかない29歳の美雨は共感できるのですね…

 

ネバーさんはさっさと実家へ帰ってしまったので空いたお部屋に、美雨が納まり、シェアハウスの住人になりました。

 

台風のため鉄道が計画運休になるので、早めに芸人シェアハウスに帰っていた美雨のもとに、ずぶ濡れの女性が訪ねてきました。

 

 

ここから重要なネタバレあります。

 

 

 

 

亨の母だというその葉月という女性は、まだ42歳。

彼女いわく、亨の父の再婚相手で、亨の父=葉月の夫が亡くなったので…遺産放棄の判子をもらいに来たのでした。

 

かつて亨が憧れていた親戚のお姉ちゃんは、亨の母となりました…

亨は北海道から大阪へ逃げるようにやってきて、たまたまなんばで声をかけられてお笑いの道へ。

その時から、コントで夏子を演じようと思っていた…亨の心の中にずっと葉月さんは生きていたんですね。

 

亨がコントで演じる女性「夏子」はリアルに美しく、仕草や佇まいが葉月さんにそっくり。

相方の弓彦くんも、一緒に作ってきた「夏子」を大切にしているから、亨の夏子は成仏させないでほしい、夏子よ永遠に、って思ってます^^

 

そっけない態度の弓彦くんだけど、真面目で、本当にお笑いが好きで…そんなところに好感が持てました。

テキトーな亨といいコンビ^^

「相方は他人の始まり」とクールに言ってのける弓彦くん、最初から他人やし(笑)

会話が面白いです!

 

あ、ちなみに、「安全ピン」というコンビ名は、葉月さんが、腰の所に安全ピンでワンピースを補正してて、それを真似たのか亨も安全ピンを付けていて。

それで「安全ピン」になった、と弓彦くん。

どんだけ葉月さんのこと好きなの?^^

 

葉月さんは、いい大人なのに、子供のような不確かさのある女性。

北海道から大阪へ出てきて、リッツ・カールトンに泊まっていると言います。

 

美雨の驚きが…

「がま口なのに(葉月さんのお財布はがま口)リッツ・カールトン、木のうろでうさぎと眠っていそうなのにリッツ・カールトン」

一穂ミチさん、たとえがいちいち面白い(笑)

 

美雨の受付嬢仲間の浅田さんは上と掛け合って、30過ぎても受付嬢をしています。

ある日誘われて、茶屋町のソシャゲ(ソーシャルゲーム)のコラボカフェに誘われました。

もう四半世紀ハマっていて、

「現実を見てるからこそ、非現実を愛してんのに。」と浅田さん。

現実逃避すな、と言われてしまうけど、現実に向き合うために必要なもの、ってあるよね。

 

それが、BTSだったり、ジャニーズだったり、宝塚だったり、大衆演劇だったり…

人それぞれ。

 

魔法はかけられるんじゃなくて自分でかかるもの。(P315)

 

いい言葉ですね~♪

 

葉月さんが大阪に滞在した最後の日にまた一緒に「安全ピン」の舞台を見に行った美雨。

 

コントのテーマは、亨が衝撃を受けた「大好きな親戚のお姉ちゃんが、お父さんと結婚することになった日」

 

亨は夏子=葉月さんを演じ、亨の役を弓彦くんが演じて。

 

葉月さんの胸の内は…描かれていないのでわからないけれど複雑だったはずです。

コントの最後に、雨の音がして「あ、雨が降ってきた」で終わるのですが、あれは美雨さんのことね、と葉月は言います。

 

亨は美雨と出会ったことで、ようやく過去を乗り越えられたのでしょうか。

 

タイトルの「パラソルでパラシュート」、

亨が「鳥人コンテスト」の最初に芸人が趣向を凝らしてプラットフォームから湖に飛び込む、という仕事をもらって、

メリー・ポピンズの衣装になって、傘を開いて、ぴょんと飛び降りた!

 

パラソルでパラシュートのように飛び降りる、

29歳という、会社に居られる崖っぷちに立っている美雨。

今までは、会社を辞めたら結婚するのか、という周囲の気持ちが苦しかったけれど、自分の思いをはっきりと口に出来なかった美雨だけれど、

すこしずつほぐれた心は、すごく自由で、シェアハウスの仲間との交流で癒やされて行きます。

 

美雨退職の日、「安全ピン」の二人と、退職記念に行きたかった「あべのハルカス」地上300メートルの展望台に行きました。

 

それぞれの傘を広げて落っこちながら誰かと手をつないだり離したりする。〈中略〉笑っていてやる、と挑むような気持ちで思う。笑いながら、何でもなく、ただ生きていてやる。張り巡らされた光の網に引っかかれず、暗がりに吸い込まれても平気。あなたたちのことを思ったらいつでも笑える。

「パラソルでパラシュート」P334~335

 

なんとなく歳を重ねて、気がついたら退職期限が迫っていた崖っぷちの美雨は、崖っぷちから飛び降りても平気なほどに、心の支えとなるものを見つけたようですね。

 

一生懸命生きているみんなを応援したくなる素敵なお話でした。

 

林真理子さんの書き下ろし「奇跡」170ページ 1760円(税込み)

Amazon評価 3.2 ★5 33%/★1 27%

一穂ミチさんの書き下ろし「パラソルでパラシュート」340ページ 1760円(税込み)Amazon評価 4.4 ★5 65%/★1 なし 

 

「奇跡」は、「パラソルでパラシュート」の半分のページ数で価格同じ、感動なし(個人的感想です)

 

断然、読み応えあって楽しいのが「パラソルでパラシュート」、おすすめです!

 

鳥人間コンテスト、今年は8月31日水曜日 午後7時オンエアですが、明日7月24日(日) 朝6時からライブ配信があるそうです。(人力プロペラ機部門)