happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

【伊吹有喜】『今はちょっと,ついてないだけ』|温かい視線で描かれたシェアハウスの仲間との敗者復活戦

2022年4月に公開された映画、「今はちょっと、ついてないだけ」(玉山鉄二主演)の原作本を読みました。

 

伊吹有喜さんらしい、温かい人間関係が描かれていて優しい気持ちになれます。

 

バブルの頃、自然写真家としてもてはやされた立花浩樹は、ブームが過ぎると忘れられ、所属事務所に負わされた多額の借金を返すうちに四十代になった。カメラも捨て、すべてを失い。自分が人生で本当に欲しいものとは、なんだったのか?問い返すうち、ある少女からの撮影依頼で東京へ行くことになった浩樹は、思いがけない人生の「敗者復活戦」に挑むことになる。

BOOKデータベースより引用

 

40代、人生の折り返し地点で、自分の来し方を見て、これからの人生を考えてしまいますよね…

 

⚠️   ネタバレあります、ご注意ください。

 

立花浩樹に同情してしまうのは、人生の早い段階(大学生時代〜卒業後数年)に「人生の山場」が来てしまいました。

残りの人生は消化試合、ならまだしも、他人の借金を背負わされ、一番の働き盛りに、借金返済のためになりふり構わず働く羽目に…

 

ふと気づけば、お金も、昔付き合っていた女性も、何も残っていない…

大好きだったカメラも借金返済の為にほとんどは売り払ってしまいました。

大切にしていたカメラのレンズは、白カビで覆われていて。

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バブルの頃の負債を抱えて、郷里に帰ってきた立花浩樹は、入院中の母の見舞いに行くと、同室の老夫人・静枝から息子と二人の写真を撮って欲しいと頼まれます。

息子の宮川は浩樹は「バブルの時の人」だった、と大きな声で言い、とても感じが悪い。

 

浩樹が携帯で撮った静枝さんと宮川の写真がいい感じだったのでフォトアルバムにして施設に届けてあげた浩樹。

静枝さんの孫から、ダンスの公演用の写真を撮って欲しいと頼まれ、自分のしたかったことは、やはり撮影だ、と東京にいく決心をします。

 

静枝の息子の宮川は、テレビ局勤務でかつて浩樹が出演していた「ネイチャリングシリーズ」を知っていました。

羽振りのいい宮川だったけれど、担当の番組が終わり、だんだんと閑職に…

 

浩樹にマウントを取ってきた宮川は家では妻から離婚届を突きつけられていて居場所のない、寂しい男でした。

 

酔いつぶれた宮川をおぶって、シェアハウスに連れ帰った立花。

彼は「ナカメシェアハウス」という、条件付きで、破格で家を貸してくれる物件に住んでいました。

美容師の瀬戸寛子と、フォトグラファーの立花、そして、立花の助手をすることになった(映像の仕事は辞めた)宮川が転がり込んできて3人の生活が活写されてます。

 

ナカメシェアハウスを中心に、いろんな人とのつながりが温かく、読み応えがあります。

 

若者でもなく、老人でもない、アラフォーの、中年ゆえの悩みや迷いがあって…

そんな中年が、今一度輝こうと奮闘しているのが素敵です。

 

立花と大学の探検部で一緒に活動していた岡野健一との再会もあります。

46歳、芸人、会田健、再起をかけて鍛えた体を見せたい、と立花の所に来る「テイクフォー」の章はラストのページで熱いものがこみ上げてきて、泣けてきました。

 

格安で借りていた「ナカメシェアハウス」の大家から立ち退きを言い渡された3人。

 

会田を撮った写真が海外でバズって此の所人気^^

You Tubeで新たなコンテンツを作って定期配信していこうとしているらしい。

そこで立花に講師として参加してほしいのだと言います。

 

自分は何を欲していたのか?

 

見たことのない風景を見たい。それを記録して、誰かに伝えたい。

 

その思いは、大学時代も、そして今もなお、浩樹の中を貫いていました。

 

美容師の瀬戸さんは、小さいマンションを買おうと思う、と。

 

立花と、助手を務める宮川が一緒に仕事を始める。

いくつになっても、新しいことにチャレンジする自分にワクワクする気持ちが生き生き描かれ、楽しい最終章です。

 

最終章は「羽化の夢」

地べたを這い回っていた芋虫が、蛹になる。

でも、そのまま地面に転がっていたら腐ってしまう。

羽ばたく勇気も必要…とかつて、浩樹に借金を押し付けてドロンした巻島が言うのでした。

 

人生は必ずしも順風満帆ではないけれど、

「今は、ちょっとついてないだけ」、だから 新たな一歩を踏み出せば人生が転がりだすかも知れない。

 

不惑になっても、惑うこともある、けれどどこかに出口や緒がある。

 

ラストは、小説冒頭の立花とは全然違う前向きな立花になって終わります。

温かい気持ちに満たされる一冊。

 

立花と宮川のバディ感もよく、立花が学生時代に出演していた『ネイチャリングシリーズ』の描写もかっこよく、本当にそういう映像があれば観てみたい、と思わされました。

 

芸人・会田健の写真を撮りに長野まで行く件も、とても素敵で目に浮かぶようです。

 

伊吹有喜さんの、世界観の作り方がとても素敵で、映画になるのも頷けます。

 

オススメの一冊♪