直木賞受賞作、候補作は読もうと思ってるので、いつもノミネートされた時点で図書館に予約しています。
『木挽町のあだ討ち』は、直木賞受賞が発表される直前に予約したので150人待ちぐらいでしたが、今は500人以上の方が予約待ちです。
Amazonの評価も、6割近くの読者が★5を付けています。
Amazon★4.3 ★5=59%
ある雪の降る夜に芝居小屋のすぐそばで、美しい若衆・菊之助による仇討ちがみごとに成し遂げられた。父親を殺めた下男を斬り、その血まみれの首を高くかかげた快挙は多くの人々から賞賛された。二年の後、菊之助の縁者という侍が仇討ちの顛末を知りたいと、芝居小屋を訪れるが――。現代人の心を揺さぶり勇気づける令和の革命的傑作誕生!
引用元:新潮社HP
五幕と終場からなる物語
第一幕 芝居茶屋の場
第二幕 稽古場の場
第三幕 衣装部屋の場
第四幕 長屋の場
第五幕 枡席の場
終幕 国元屋敷の場
第一章、ではなく、第一幕…と、〜の場、と書いてあるとおり
木戸芸人、立て(殺陣)師、衣装係…とお芝居に関する職業の登場人物たちが、主人公・菊之介のあだ討ちについて語っていく第一幕から第五幕。
それらを踏まえて、終幕・国元屋敷の場がいきいきと立ち上がってきます。
そうだったのか…な種明かしあり、ある意味どんでん返し。
あだ討ちが「仇討ち」ではないところに含みがあります。
プロットが巧い、さすが直木賞受賞作です。
普段描かれることの少ない、江戸時代の職業や、町人の日々の暮らしを読むのが楽しいです。
登場人物がいきいきと動いて脳内ドラマが楽しいです
第一幕 芝居茶屋の場
芝居小屋の木戸(改札)前で、かかっている芝居が如何に面白いか、
見どころを語り、時に、登場人物になって名セリフの一節を語って聞かせる「木戸芸者」の一八(いっぱち)。
第二幕 稽古場の場
元は武士の与三郎。
訳あって武士を捨て、芝居の森田座で立て師として職を得ています。
第三幕 衣装部屋の場
街道で行き倒れた、孤児の六は隠亡(火葬場で働く人)の爺さんに拾われたが、じきに爺さんとも死に別れました。
餓死寸前のところを女形の役者・芳澤あやめさんに拾われて…衣装を直したり、衣装に刺繍をほどこす仕事をしているうちに自身も衣装の仕立てや刺繍をするまでになりました。女形の二代目芳澤あやめとして生きている。
第四幕 長屋の場
あ、うん、としか喋らない阿吽の久蔵は、右に出るものがないぐらいの彫り物師。
器用に鳥や舞台で使う小道具を彫っています。
第五幕 枡席の場
脚本を書く金治はもと旗本の次男坊。
年の離れた許嫁もいて、ときが来るまで退屈しのぎに遊んでいると、上方からきた五瓶という男と出会いました。
軽やかに生きる五瓶が羨ましく、金治(野々山正二)は、武士を捨て五瓶に弟子入りしたのでした。
この五瓶の許嫁、というのが、なんと、菊之助の母でした。
みなさん木挽町の芝居小屋の森田座に縁のある人達。
それぞれの場(章)で、江戸に生きる人達の暮らしぶりを読むのが楽しくてずんずん読み進みました。
芝居に関することも、なるほど、と興味深かったです。
書き留めておきたいような心に残るセリフもあり、心が豊かになる感じ。
菊之介のあだ討ちに付いて聞き回っているのは、菊之介からあだ討ちのことを聞いてくるように、と文を託されてやってきた総一郎。
芝居小屋のだれもが、「あれは立派なあだ討ちでしたよ」と口を揃えていうのでした。
今回初めて知ったのですが、
あだ討ちに出るには、届け出をしてから出立し、万が一あだ討ちを遂げられなかったら浪人となり、二度と故郷の土を踏めないのだそうです。
菊之助の父の覚悟、使用人作兵衛のこと
菊之助の父は清廉潔白な人で、藩内で勘定に不正があることを知り、不正を正そうと考えていました。
悪巧みする家老らは、菊之助の父・伊納清左衛門を逆に悪者に仕立てて、悪い噂を流していました。
ある日、父はいきなり菊之助に斬りかかり、止めに入る使用人の作兵衛と斬り合いになり、父は首を斬られて絶命。
幼い頃から優しくしてくれた作兵衛が父を殺めたことに驚いていると…
家老らと悪巧みをしている叔父があだ討ちに行け、と菊之助を追い立てて…お家乗っ取り計画を立てていたようです。
あだ討ちに家を出てきたものの、どうしていいかわからない菊之助は芝居小屋にやっかいになりながら、作之助を探すことに…
作兵衛を討つのは嫌だ、だけど、彼を討たないと帰れない、母が一人で待っているのだ。
作兵衛を死なせたくない、でもあだ討ちを遂げなければならない、と悩む菊之助に、両方叶える方法がある…と妙案がもたらされ…
終幕 国元屋敷の場で、ネタバレ、どんでん返し、なるほど!
ここまで読んできた「菊之助の見事なあだ討ち」は、そうだったのか、というネタバラシがあります。
ここでは言及しませんが
あだ討ちであって、「仇討ち」ではないのは、そういうことだったのか…と。
芝居小屋の仲間がいてこそのあだ討ちだったのですね。
見事、あだ討ちを果たした菊之助は故郷に帰り、父に替わって、不正を暴き、悪を一掃したのでした。
江戸の市井に生きる人達を活写していて楽しいです。
一人の青年が、芝居小屋の人たちにあだ討ちの顛末を聞いて回ることで、少しずつ事件の輪郭がはっきりとしていく、というプロットの上手さ。
菊之助の父への複雑な思い、作兵衛への思いが迷いに繋がっていくところも読まされました。
終幕で一気に立ち上がるストーリーの面白さ。
さすが、直木賞受賞作、オススメです!