⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

小林由香著「救いの森」読了

新聞広告で見て 読んでみました

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親からの虐待(暴力・ネグレクト)、貧困、いじめ などで命の危機に晒されている子どもたちを救いたい、新米児童救命士の長谷川の奮闘、仕事上のパートナーであり先輩の新堂との関係…興味深く読みました。

 

いじめや虐待、誘拐など命の危険を感じた時に起動させると、児童救命士がかけつける「ライフバンド」。児童保護救済法が成立し、義務教育期間の子どもにその着用が義務づけられた。ある日、新米児童救命士の長谷川は「ライフバンド」の検査で小学校に出向き、そこでわざと警告音を鳴らす少年と出会う…。生きづらい現代に希望を照らす、衝撃の問題作!

 BOOK データベース より引用

 

近未来の話でしょうか、義務教育期間の小中学生には「ライフバンド」という緊急時に助けを求める装置を腕に装着しているのです。

子どもたちは身の危険を感じたら 自らライフバンドのカバーを外し指を当てると 児童保護本部通信指令に連絡が行き、発信地から 管轄の児童保護署へ出動命令がくだされるシステムになっていました。

 本の帯には 

明日の未来を支える子供を守るため 僕たちはあきらめない。

読むのが辛いシーンもありましたが 読後感は爽快で どのお話もじわりと心が温かくなります。

4章からなっています

第1章 語らない少年

江戸川児童保護署に配属になったばかりの長谷川。二人一組で任務にあたるが、パートナーは変人で名高い新堂敦士。やる気の無さを前面に出して 新入りの指導をする気もなさそうな人物、

小学校へライフバンドの点検に行くと、いきなりライフバンドを使った少年がいました。

家庭内暴力に悩む少年 須藤誠、その場でも面接でも何も語らない誠の心を開いたのは他でもない新堂でした。

苦しむ者の心にスルリと入っていく新堂とは…?

子ども時代が悪かったから、愚かな大人になるわけじゃない。苦労を経験した者は、将来立派な人間になる。

それを信じて 傷ついた子供に言い続けろ、と。

第2章 ギトモサイア

深夜2時過ぎに児童保護の緊急指令が署内に流れました。保護要請は8歳の女の子。深夜の公園に駆けつけると「ギトモサイア」という謎の言葉しか話さない、心を閉ざしている様子。

ここで 管轄の警察がどちらの管轄下なのかという小競り合いがあります。児童の自宅は深川署、発見された公園は小岩署の管轄、現実問題として横たわる「管轄」とう壁も描かれます。

家には母とうんと年の離れた若い「父親」がいて、とても感じのいい青年だけれど 女の子美月は懐こうとせず 家を出ていってしまった 前の父親に心を残していたのでした… やがて 若い父親の本性が暴かれて…。

新堂は言いました。

ガキの頃 人に助けてもらった経験のある者は成長してから今度は自分が誰かを助けたいと思うようになる

青年と別れ、フランスに移住する母と海を渡ることになった美月。空港に見送りに行くと 美月は紺色のミサンガをそっと長谷川の腕に巻いてくれたのでした。

第3章 リピーター

椎葉涼太は 短期間の間になんどもライフバンドで救助を要請していました。そして 決まって河川敷で救助され 救助者は河川敷で寝起きしている前田裕二という男でした。

涼太は クラスの孝之介が主犯でいじめられている、というので 長谷川たちは学校に出向き、聞き取り調査を行いました。涼太と孝之介は 実は仲がいい、という意見も聞こえてきて…

実は涼太が孝之介にいじめられて 裕二に助けられた、というと ホームレスの裕二に1万円の報奨金出るという。人助けのための不正使用でした。

貧困者を救えない日本は何をやっているんだ、と義憤に燃える涼太もまた、親はネグレクトで貧困家庭でした。それを見かねて 長谷川はお願いがある、と涼太に言いました。

大人になるまで、生きていてほしいんだ

新堂の育ての親 キヨさんが都内のアパートでこども食堂を開いていました。

そんなキヨさんが 長谷川に「あん子たちの将来の夢を知っちょいか?」

孝之介は政治家、涼太の夢は…児童救命士じゃ!」 はい、涙腺崩壊~

第4章 希望の音

児童救命士が子供に暴力をふるっている写真がパソコンの画面にひろがっていました。「暴力児童救命士の実態」というHP。

そこには 長谷川のパートナー・新堂敦士への憎悪が書き綴られ、「みなさんの力で新堂敦士に私刑を科してください」と締めくくられていました。

新堂は何をしたのか。新堂の母は義父と共に 2つ下の弟を虐待し死亡させた。衰弱した弟は紙おむつを穿かされ犬用のケージに入れらたまま亡くなった…(過去にこんな事件ありました) 体にはやけどの痕がいくつもあり、そのうちのひとつは新堂がタバコを腹部に押し当てたと証言した…と明かされます。 民間の調査会社のレポートによるものでした。

みるみるうちにネットは炎上、新堂に対する罵詈雑言で埋め尽くされました…

国家保護施設へ 第一章の語らない少年 誠に会いにいくと、

「ぼくと同じように苦しんでいる子を、長谷川さんはこれからたくさん救ってくれる人間だから、ちゃんと声に出して真実を語ってほしい、って(新堂に)お願いされたんです」

一見 放ったらかしで無責任なように見える新堂が見えない所で 子どもたちの心に寄り添い 長谷川をサポートしていたことがわかり 胸が熱くなるくだりです。

上司が「新堂くんとパートナーになった人は辞めない」と言っていた理由がわかりました、ここまで信頼されていたら裏切るわけにはいかないからです。

翌日、新堂への憎しみを綴ったサイトに あれは嘘だった 新堂に恨みを持つ柳原麗華に嘘を書かされた、という動画がアップされました。

児童救命士が暴力を振るっている嘘の写真を撮影し 投稿したのは麗華の学校の工藤拓海。良心の呵責に耐えかねて 逆に麗華の悪事をネットでバラしました。それを知った麗華の行動は女子校生とは思えないもので 殺意のかたまりとなっていました。

新堂は女子高生・麗華に監禁され…と バイオレンスドラマのような展開です。

 

新堂敦士に助けられたかつての保護児童たちが たちあがり新堂にエールを送っていました。

「新堂児童救命士、ありがとう! 僕たちはあなたに救われた」と書いたプラカードを掲げている動画がスマートフォン画面に流れていました。

 もう、ここでダダ泣きです。。。

ネモフィラの花が 児童救命士手帳に描かれています、花言葉は「あなたを許します」

「児童救命士は 誰かを罰するのではなくみんなが自分らしく 安全に行きられる世の中を望んでいる」

これからの未来を担う子どもたちが安全に暮らせるように…当たり前のようで それができてない家庭もあります。

世界には 災害や戦争、病気などで安全を脅かされている子供もたくさんいますが、皆が幸せに大人になってほしいと願わずにはおれません。

 

長谷川に異動命令がでました。もうパートナーは組めない。

本気で誰かを救済したいなら、自分自身も傷つく覚悟が必要だ。救えなかったとき、己も絶望の底なし沼に引きずり込まれるからだ。それほど人を救うということは難しい。それでも覚悟を持って進むなら、俺もお前と一緒に地獄に行ってやる。

 本文より

 

新堂の言葉がずしり、と胸に蘇ってきたのでした。

最近悲しかった児童虐待のニュース

結愛ちゃんの事件

幼い子に朝4時に起きて勉強させるなど 常軌を逸した親の躾? しつけと呼べるのか??

許しを請う必死の叫びを無視するなど鬼畜の行い。

公的機関など、周囲の大人が救ってあげられなかったのかと哀しい。

心愛ちゃんの事件

野田小4虐待事件、という名前までついてWikipediaに載っています。

被害児童は、幼い子どもではなく、小学校に通っていた少女、 なんとかならなかったのかと残念で仕方ないです。

保護所から自宅へ戻りたくない、と泣いていたのに帰してしまった児相、親に脅されて 心愛ちゃんが父から虐待をされている、と書いたアンケート用紙を父に見せてしまった学校。

これは 親だけでなく、裏切り者の学校も大きな責任があると思っています。

教育委員会は大うそつきの件

遺書に教育委員会は大うそつき、と書いて自死した少年。どんな思いで書いたのか。胸がつぶれる思いです。この遺書を読んだ 教育委員会の人の感想を聞いてみたい。

教育委員会は いじめ側に教育関係者、政治家の関係者などがいると弱いんだろうな、という印象をうけます。発言権の強そうな人に 毅然とできない土壌があるのかも知れません。

ちょっと 宝塚96期いじめ裁判を思い出してしまいました。

 

児相、怠慢か?と思うような事件もあります。命を守る!という決意をしっかり持ってほしいです。

長谷川のような熱血漢が 疲弊しないような職場環境や制度の見直しも必要になってくるのかも…