青山美智子さん…昨年1月の本屋大賞ノミネートの時に、初めて知りました。
2017年8月、『木曜日にはココアを』(宝島社)で小説家デビューされたとのこと。
全くのノーマークの作家さんでした。
心温まる連作短編集です
一章 朋香 21歳 婦人服販売員
二章 諒 35歳 家具メーカー経理部
三章 夏美 40歳 元雑誌編集者
四章 浩弥 30歳 ニート
五章 正雄 65歳 定年退職
仕事や生き方に悩みや迷いを抱えた5人の登場人物が一冊の本の中で緩く繋がっています。
そして、その中心にいるのが、「コミハ」=コミュニティハウス、の奥にある図書室のレファレンス(利用者に必要な資料を検索、提示すること)コーナーにいる小町さゆりさん♪
小町さんのキャラがキョーレツ!会いたい!!
小町さんは、初めて会ったら誰もが一瞬たじろぐような、巨体で、作品の中では「ベイマックスのような」とか「鏡餅のような」と形容されているオバサン司書さん。
ひっつめて頭の上に作ったお団子髪にかんざしを挿しています。
ムッツリとしていながら温かく、それでいて、馴れ合わない、独特のキャラとして描かれています。
図書検索は、大きな体からは想像つかない早打ちタイピングで、最後にパーンと(多分エンター)キーを押すとおすすめ図書が印字された紙が出てくるのです。^^
なぜか、必ず1冊、関係なさそうな童話だったり、詩集だったり、図鑑などが提示されているのですが、その本は相談者に啓示を与える、という流れ。
泣けます。
小町さんは決して愛想良くはないのですが、図書を提示した後、「これは付録」と言って、羊毛フェルトのマスコットをくれるのです。
彼女は、相談者がいないときは、有名なハニードームというお菓子の空箱利用の裁縫箱から、ハサミや針を出してきて、チクチクと羊毛フェルトで作品を作っているのです。
読んでたら、羊毛フェルトを作ってみたくなります。
小町さんが、相談者にあげた、猫やフライパン、地球や飛行機や蟹がこの本の表紙絵(写真)に載っているんです、読み終わってから気づきました。(遅)
小町さんが提示する図書の一番下に書かれた、一見関係なさそうな本が相談者を勇気づける、っていうアイデア、素敵です。
小町さんはどうやって、選んだんだろう、と三章の夏美は思うのでした。
もし、私がなにかの本を探しにいったら、どんな意外な図書を提示してもらえるのか??
小町さゆりさんに会いたいです!!^^
仕事や人生に向き合うときのサジェスチョンが詰まっています
一章 朋香
田舎から出たい一心でなんとなく就職してしまった総合スーパー「エデン」の婦人服売り場勤務。
理不尽なことを言う客に、心を削り取られもします。
転職のためのPC講座を受けに、コミハを訪れた朋香は小町さんにパソコンのほんの他に絵本「ぐりとぐら」を勧められました^^
「エデン」にある専門店のメガネ屋の桐山くんは、もと雑誌編集をしていたとか。
畑違いのメガネ屋に転職して不安はなかったの??
彼は言います、
「まず必要なのは目の前のことにひたむきに取り組んでいくことなんだと思った。そうやっているうち、過去の頑張りが思いがけず役にたったり、いいご縁ができたりね」(P40より抜粋)
絵本「ぐりとぐら」を勧められ、フライパンの羊毛フェルトをもらった朋香は、目の前に現れた大きな卵でカステラを焼く「ぐりとぐら」(中川李枝子・文)からも、目の前のことに一生懸命取り組むことの大切さを知ります。
厳しい、と思っていた先輩のパートの沼内さんの鮮やかな接客を見て、スーパーの仕事がたいした仕事じゃない、と言った自分を恥じた朋香。
社員の自分は、パートの沼内さんを見下してはいなかったか?
自分が、大した仕事をしていないだけだったと気づくのでした。
二章 諒
高校時代に骨董品のENMOKUYAで出会った一本の純銀のスプーン。
その頃から、骨董(アンティーク)の魅力に取り憑かれ、いつかあんな店を持ちたいと思っていた諒。
恋人の比奈は、シーグラスでアクセサリーを作っていて、ネットショップを開くためにPC教室に通い始めました。
諒も一緒にコミハについて行って図書室で起業の本を教えてほしい、と言うと、一番下に提示されてたのは「植物のふしぎ」(ガイ・バーター著)という本でした。
付録は猫。
コミハのチラシに小町さんイチオシのお店「キャッツ・ナウ・ブックス」が紹介されていて。
「猫と本とビールに囲まれて」と好きなものに囲まれてパラレルキャリアを歩む安原さんの記事がスマホに出ていました。
比奈と喧嘩をしてぽっかり予定が空いた休日に行って話を聞きに行きました。
彼は、これは副業ではない、2つの仕事に主従関係はない、といいます。
「つながっているんですよ、みんな。一つの結び目からどんどん広がっていくんです。そういう縁はいつかやろうって時が来るのを待っていたらめぐってこないかもしれない」(P104より抜粋)
チャンスの女神の前髪をつかめ、ですね!!^^
世界は…愛ではなくて 「信用」で回っている。
ラストは目頭が熱くなりました。
三章 夏美
泣きました、何度も。
頑張りも、だからこその失望も、悔しさも…わかります、だから泣けました。
人気女性誌「ミラ」の編集部にいた崎谷夏美は、妊娠・出産の後、職場復帰すると、資料室への異動を命じられました。
「ミラ」時代には、一方ならぬ貢献をした、という自負もあっただけに、まさかと眼の前が真っ暗に。
少しでもブランクを短くするために、早期の復職でしたし、会社にとって、初の産休を取った社員だから、後に続く人のためにも頑張らねば、と思っていただけに悔しさが募ります。
何より、絶対に連載は書かないという女流作家・彼方みづえに掛け合い、連載を掲載して大ヒット、夏美の大きな功績となっていたのに…こうもあっさりとなかったかのように扱われるとは…
大事な日に限って?子供が熱を出す、疲れているときに限って寝てくれない、大泣きする、夫は役に立たずワンオペ…
そんなイライラ、手にとるようにわかります。
私自身は、転勤族の為、結婚と同時に会社を辞めたので実体験はしていないのですが、先輩方を見て感じるところは大いにありました。
絵本を借りにいった図書室で小町さんに勧められた意外な図書は「月のとびら」(石井ゆかり著)、付録は地球儀。
「私たちは大きなことから小さなことまで どんなに努力しても思い通りにならないことに囲まれて生きています」(P161より抜粋)
そうなんだ、足掻いてもしかたがない。どれだけ肩の力が抜けて楽になる言葉でしょうか!
無理に今の会社に居る必要もない、と転職を決意したときに、またとない出版社の求人が! 締切は明日!これはチャンスだ、と思ったけれど結果は不採用。
落胆しているときに、知り合いからの電話。
文芸編集者を急募したいが、広告を出す前に知り合いでいないか…と探していたと。
不採用だったことが 逆にやりたい仕事につながって…また泣かされました。(嬉し泣き)
四章 浩弥
仕事もしてないし、学校にも行っていない、資格取得のための勉強もしていない、それがニート。
母に頼まれて、コミハ・マルシェへ大根を買いに行って出会ったのが、羊毛フェルトの「モンガー」でした。
子供の頃読んだ藤子不二雄の漫画「21えもん」に出てくるキャラ。
叔父の経営する漫画喫茶で子供の頃に読んだ漫画の話で小町さんと盛り上がる浩弥^^
絵が好きでデザイン学校に行ってたのに就職で躓き、その後はだらだらとニートをしている。
「漫画家はすごい、俺には無理とわかった」という浩弥に、無理とは?と疑問を呈する小町さん。
「おまえは今、生きている」と北斗の拳のケンシロウのパロディを言いながら差し出した紙には一行、「進化の記録 ダーウィンたちの見た世界」。
図書室で鳥の化石の絵を見て突如「描きたい」気持ちが湧き上がり、メモ用紙に、借りたボールペンで無心に在りし日の鳥の姿を想像で描き出すと…やがて、鳥の絵に命が宿って…
それを見た司書の卵ののぞみちゃんが、すごい!と褒めてくれました。
自分の絵が、人の心を動かす喜びを感じた浩弥は、居場所を見つけた心地がしました。
空きが出たコミハのスタッフをやらせてほしいと自ら名乗り出て…少しずつ自信と居場所を取り戻していくさまが清々しいです♪
五章 正雄
65歳で定年退職をして半年、趣味もなく、話し相手もいない。
50代の妻は、生き生きと仕事をしているというのに…
妻に勧められてコミハの「囲碁教室」に参加。定年後あるあるですね~^^
囲碁の本を探そうとコミハの奥の図書室へ行くと、司書の机の上に裁縫箱代わりの菓子箱が…それはまぎれもなく、正雄が長年務めた菓子会社・呉宮堂のハニードームの箱でした。
もう自分はあの呉宮堂の社員ではない…改めて、社会から退いた寂しさを味わう正雄。
小町さんのおすすめ図書の一番下に草野心平の詩集がありました。
付録は…蟹。
小町さんおすすめの「げんげと蛙」の編者、さわたかしさんが、気に入った詩は、全部でも、一部でも書き写すと良い、とおすすめされていました。
五章では、今までに登場した人物が再び登場して、この本をまとめている章になっています。
伏線回収章ですね^^
本屋で働く娘と休憩時間に食事をともにする正雄に彼女は言いました
「作る人がいるだけじゃ、だめなのよ。伝えて、手渡す人がいなきゃ。中略 私もその流れの一部なんだって、そこには誇りを持ってる。」(P290より抜粋)
社会の一員として、会社の一社員として、歯車でも良い、人と関わって、誰かの役に立っていれば 誇りを持てるのです。
どんな仕事も、真摯に向きあうことで、見えてくるものがある、と気付かされます。
元気が出る本です♪