人間関係は、相手を理解しようとする互いの努力の上に成り立っている
久しぶりに有川浩さんの作品を読みました。
この作品は、2006年に出版された『図書館内乱』の作中作として登場し、その後著者が改めて書き下ろしたという小説だそうです。
これは、『図書館内乱』も読んでみたくなりますね〜^^
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きっかけは「忘れられない本」。そこから始まったメールの交換。共通の趣味を持つ二人が接近するのに、それほど時間はかからなかった。まして、ネット内時間は流れが速い。僕は、あっという間に、どうしても彼女に会いたいと思うようになっていた。だが、彼女はどうしても会えないと言う。かたくなに会うのを拒む彼女には、そう主張せざるを得ない、ある理由があった――。
「BOOK」データベースより
主人公 伸行が学生時代ドハマリした忘れられない小説『フェアリーゲーム』。
その本の登場人物や、ラストの描き方について、誰かと語り合いたい、という思いをずっと抱えていました。
ある日、『フェアリーゲーム』で感想をググってみるとヒットしたブログがありました、ブログ名は、「レインツリーの国」。
伸行は、自分の思いを「フェアリーゲーム」ファンの誰かに語りたかった。
一方的に聞いてもらいたくて書いたコメントに、思いもよらずブログ主=ひとみから返事が来てやりとりが始まります。
何度もブログのコメント欄で熱く語り、やりとりしているうちに、気が合う、考え方が似てる、と感じ、コメント欄でのやり取りがもどかしくなってきて、
今すぐ反応が欲しい、どういう言葉で返してくるだろう?と会いたい気持ちが募っていきます。
彼女も会いたいけれど会えない理由があるようですが、なんとか会うところまでこぎ着けました。
なのに…
会ってみた彼女との初デートはちょっとギクシャクして、最後は後味の悪いものになりました。
彼女は、聴覚に障害があり、それを隠していました。
聞こえが悪いのが原因で取った行動も、伸行には、鈍い、デリカシーがない、わがまま、な態度に思えてしまったんですね…
それで、彼女=ひとみにきつく当たってしまった。
これで切れてしまうのか…と思ったけれど、2人はまたポツポツと細い糸を手繰り寄せて交流を続けていきます。
彼女は聞こえないことで、職場でも疎外感を味わっていてあまり誰かと交流することがなかったのです。
洋服ですら、店員に声をかけられるのが嫌で、母親に買ってもらって無難なデザインのものを身に付けていました。
伸行は、控え目で冒険をしない彼女を、伸行のおばさんがやっている美容院につれていき、バッサリと髪を切った方がいい、とアドバイスして…
彼女を日向へと導いてあげる伸行。
ひとみは、耳に障害があることで臆病になり、自分から他人との間に線を引いていたように感じます。
すこし卑屈になったりもしていました。
関西弁で話す明るい伸行ですが、父が脳腫瘍で手術から生還した時に、自分の事だけ忘れ去られていて、自分の事はヘルパーだと思われていると話しました。
ひとみは、耳が聞こえずに不自由したり、嫌な思いをすることがあって、その事実ばかりに囚われて、他人のことを思いやる余裕がないのでした。
伸行の父の話をきいて、初めてひとみは自分を恥じました。
自分が大変な思いをしていたり、思い悩んでいることで、他人を羨んだり、他人には何の苦労もないのだろうと思うのは違っていますね。
人間関係は、互いに思いやることが大切。
幸せそうに見えても、健康そうにみえても、本当のその人が抱える悩みなんて他人には見えないのだから。
ひとみの障害の理解を深めるため、本も読んで歩み寄ろうと努める伸行、えらい♪
その気持に応えるのは、ひとみが、聴覚障害であることを受け入れ、隠さず明るく生きることなのだな、と思いました。
悩んでいる時には、悲劇のヒロインになる人もいるけれど、優しい声をかけてくれたその人だって、その人なりの苦労や悩みがあるかもしれないから、
いつだって、他者に思いやりを持って生きることが、素敵な人間関係を築く基本のきなのですね。
あとがきの有川浩さんの言葉:
「私が書きたかったのは『障害者の話』ではなく、『恋の話』です。ただヒロインが聴覚のハンデを持っているだけの。」作者のあとがきのこの一文がとても良く、だけど重たく、障害者とか健常者という境界線が無くなれば良いのにと思う。
ひとみがつくったブログ「レインツリーの国」。
レインツリー(雨の木)とは、ねむのきのこと。
ハナコトバは歓喜。
自分一人で感想を書いて楽しむつもりで作った歓喜の国に、伸行という訪問者が訪れて、初めてそこは歓喜の国になったのでした…
温かいものがじわ〜っと広がる素敵な恋愛小説です。
2007年、NHK-FMのオーディオドラマでドラマ化、
2015年、キスマイの玉森裕太主演で映画化(avex)もされています。