⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【瀬尾まいこ】「夜明けのすべて」 温かく優しい物語

パニック障害の彼、PMSの彼女 小さな職場の心温まる物語

 

瀬尾まいこさんの、本屋大賞受賞後第一作、「夜明けのすべて」を読みました。

 

瀬尾まい子さんの著作は、本屋大賞受賞作で映画化された「そしてバトンは渡された」が感動作だったので、他の作品も読んでみたくて…

 

知ってる? 夜明けの直前が、一番暗いって。

職場の人たちの理解に助けられながらも、月に一度のPMS(月経前症候群)でイライラが抑えられない美紗は、やる気がないように見える、転職してきたばかりの山添君に当たってしまう。
山添君は、パニック障害になり、生きがいも気力も失っていた。
互いに友情も恋も感じてないけれど、おせっかい者同士の二人は、自分の病気は治せなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになる――。

人生は思っていたより厳しいけれど、救いだってそこら中にある。
暗闇に光が差し込む、温かな物語。

本屋大賞受賞後第一作。渾身の書き下ろし。

水鈴社HPより

 

PMS(生理前症候群)のせいで、時としてイライラを爆発させ周囲の人間に当たり散らす藤沢美紗。

パニック障害で生きづらさを抱えている男性・山添孝俊。

 

社員6名の小さな会社で2人は出会いました。

社長も社員も年配で、温かく2人を見守っています。

互いに相手の事が好きじゃないのに、相手の事が心配でおせっかいなまでに親切で…
噛み合わない2人の会話が笑えます^^

 

⚠ネタバレあります、ご注意ください

 

パニック障害で辞めた前の職場の辻本課長の言動に泣かされました

「休暇をとればいい。思い切って一ヶ月ぐらい休職したっていいんだ。辞めることなどない。」

〈中略〉

「わかった。今はこれ以上聞かないけど、いつでも戻ってきたらいい」

夜明けのすべて P44 より

小さなことにはこだわらない、仕事ができる人。

懐が深く、

新入社員の言う事にも「それいいね」「やってみよう」と背中を押してくれ、サポートしてくれた。

そして、失敗しそうになるとフォローしてくれ、うまくいくと自分はまるで無関係のように「すごいなあ」とほめたたえてくれた。

夜明けのすべて P45 より

もう、泣きました。

 

大好きな辻本課長のいる職場を入社半年で去らざるを得なくなった山添くんの残念で悔しい気持ちが胸に迫ります。

 

お正月、山添のアパートのポストに3つのお守りが投函されていました。

山添クン、愛されキャラだったのね、みんなが山添くんを案じてお守りを買ってくるなんて^^

ひとつは、美紗から、ひとつは多分社長から、もうひとつ伊勢神宮のお守りは…?

辻本課長からでした、退職して2年経つのに。

今も案じてお守りを送ってくれる、その優しさに胸熱。

 

PMSの美紗は、ちょっと嫌な物言いをする女性

PMSの時は、上司にも同僚にも友人にも当たり散らす美紗、自分でわかっていても止められない。

 

それとは別にPMSのせいではなく、普段の会話が、

ナイルパーチの女子会に登場した友達のいない高飛車な女性・栄利子に似てます。

先回りして、色々気を利かせて親切にするのは良いんだけれど…圧強め。

「~してあげてる」という自意識が強くて、年下の山添には何でも言える、と自負しています。

「藤沢さん、PMSだからって言葉を選ばなくていいってわけじゃないんですよ」とまで言われてしまうのですが…全然堪えてない…

 

山添にお守りをあげた美紗は、(自分の他に)山添くんの幸せを密かに願ってくれてる人がいるね、というので 「それ、藤沢さんのことですか?お守りくれたの恩に着せてます?」と山添が軽口で返すと…

「ああ、そっか。私はそこまで願ってなかったから、自分のこと忘れてた」

サラッと感じ悪いけど、照れ隠し?

 

栗田金属にいるのは、寛大でできる社長に、有能な社員、社員は全員有能、と山添が言うと、

「私を勝手に入れないでよ」…と。謙遜なのでしょうか?

 

ちょっと天然な山添くんとの会話が噛み合ってなくて、それでいて相手のことを心配しておせっかいを焼く2人の会話が笑えました^^

 

お互い相手を好きではない、と公言する2人ですが、「好きになる可能性はある」と意味深な発言をするまでに ^^;

どうなっていくのでしょうか?

 

栗田金属の職場の栗田社長にもじわじわ来ます

入社半年も経たない山添の提案を受け入れ、すぐさま行動に移せる人。

のんびり穏やかな反面、実行力も観察力もある、こちらも懐の深いひと。

山添くんは上司に恵まれてますね^^

 

PMSを公表している美紗は、周囲にそのことを知ってもらうことで楽になりました。

山添がパニック障害であることを社長に伝えるのですが、

「公表して楽になる人もいれば、誰にも気づかれずにいるほうが楽な人もいるから、難しいよね」と社長。

人それぞれ、価値観や物事のスタンスは違いますよね^^;

 

また、おせっかいしてしまった…とちょっぴり反省の美紗でした。

そんな社長は「自身が30年患っている病気」の告白をして和ませてくれました。

奥さんの社長へのさりげない思いやりを聞かされ、親切のゴリゴリ ゴリ押しの美紗と違うところだ、と気づくのでした^^

 

夜が開けていく

季節は流れて、人生に何も楽しみを見いだせなくなっていた山添くんは、桜餅やよもぎ餅のようないい香りがする和菓子を思い出して、少しずつ元の自分を取り戻して行きます。

入社当時は、与えられた仕事をこなすだけでいっぱいいっぱいで、家にたどり着いたら疲労困憊だったところから、新しい企画を提案するまでに回復した山添は、未来に確かな手応えを感じて…

夕日が必ず朝日になることを、今の俺は知っている。

 

ク~~~、染みる!

 

読後感爽やかな、心温まる物語でした❤

 

この物語は瀬尾まいこさんの体験に基づいて書かれています

水鈴社のHPのメッセージというボタンを押してみました。

瀬尾まいこさんの直筆で、便箋三枚のメッセージ。

瀬尾まいこさん自身、パニック障害を体験されています。

パニック発作が起きた時の不安な気持ちや症状、お薬のことは、ネットや誰かに取材して書かれたのかと思っていました。

 

「そして、バトンは渡された」で本屋大賞を受賞される2年前に体験されたそうです。

いつ発作が起きるかわからない恐怖があるため、閉鎖空間が苦手になります。

本屋大賞受賞の連絡は嬉しかったけれど不安も大きく、乗り物に乗って東京まで行けるのか、人前に立てるのか、と心配されたそうです。

でも、出版社、書店、読者の期待が瀬尾まいこさんを支え、一度も発作は起きなかったのだそうです。

長く苦しまれる方もいるでしょう、なにかのきっかけで好転していくと良いですね…

真っ只中に居る時は、苦しくてトンネルの出口すら見えず絶望的になると思いますが、もし一条の光を見つけられたら…と願わずにはいられません。