寺地はるなさんの、心温まる、時々くすっと笑えるすてきな物語に出会いました
芯と篤彦をとりまく物語『咲くのは花だけではない』と
篤彦の母・陽子のモノローグ『手の中にある』
芯の元同僚、花岡の過去『魔法なんてここにはない』
の3話が収められています。
Amazon★4.1 ★5=42% 発売日:2018年2月2日(単行本 2016年2月15日)
ミナトホテル、って言うタイトルなので、横浜か神戸あたりの港町にあるホテルのお話かと思ったら…経営者が湊(みなと)さん、っていうお名前で、ミナトホテルですって。^^
大通りから入った閑静な地に佇む通称「ミナトホテル」は、
大正末期に建てられたキャラメルのような見た目の宿泊施設だ。
館内には四季折々美しい花が飾られ、骨董家具が設えられた六つの客室は防音仕様。
看板を出していないのに、人知れず「眠れない」「食べられない」お客が集い、
時には長期で滞在する人たちも――。
誰かと繋がりあうことのよろこびを、
やさしく温かく力強く紡ぎ出した、心に響く物語。引用元:ポプラ社
会話が楽しく、脳内映像化が楽しい物語、ステキな言葉も満載
主人公の芯が祖父に言いつけで「ミナトホテル」を訪ねていくと…いきなり…2階から転がり落ちて来たのが、湊篤彦、ミナトホテルのオーナーでした。
そのまま、救急車を呼んで病院へ…と派手な展開でつかみはオッケー!
この物語、ストーリーも温かいのですが、会話がとても楽しくて、リアルに場面を想像できます。
くすっと笑えるボケやらツッコミやら、設定すら面白いのです。
芯の祖父は、近所に住む中学校の同級生と4人で互助会、を結成しています。
大人になったらわがままを言う機会が減るので会員のわがままを全員が聞いてあげる会。
その「内なるわがままを解き放つための書」(本文より)が「わがまま書道」、面白い。
私も書いてみようかしら ^^
篤彦の飼っている猫は、平田カラメル、名字を持つ猫。
「かわいそうとか、他人が決めることじゃない、君はつらさ判定員か?」(本文 篤彦の言葉)
派遣社員の横田さんの読んでる本、これは夏目漱石の『虞美人草』の一節
「愛嬌というのは自分より強いものを斃す柔らかい武器」(本文より)
ほぉ〜〜♪
人に媚びているみたいで笑顔を見せるのが嫌、面白くないのに笑えるか!と思ってた芯。
互助会の美千代さんのことば
「夫婦は家の中でじっと顔をつきあわせているとかえって仲が悪くなるものよ」(本文より)
篤彦は
「誰かの助けになれるとか、守るとか 一緒に倒れる覚悟がある相手にしか本当は言ってはいけない」
本当にそう思う、運命共同体である家族にしか言えない言葉だと思いました。
他の誰かに、軽々しく言える言葉ではないですよね、「守る」って。
職場の同僚・渡部の芯を見下し発言に
「他人は自分の精神を安定させるための道具じゃない」、スカーーーーッ!!
ミナトホテルの裏庭にはにわにはにはにわとり…って言いたくなる
お話は、1年前に亡くなった互助会員のひとり、陽子さんの一周忌を執り行うにあたり、彼女のわがままを聞いて上げるところから始まります。
ミナトホテルの裏庭で一周忌をあげて欲しい、という陽子さんのわがままを叶えたい互助会のメンバーですが、裏庭には鍵がかかっているので、その鍵を探すのが芯に与えられた仕事でした。
湊陽子さんは、みんなから愛される穏やかな人で、ミナトホテルの一室で暮らしていましたが…唯一の欠点が片付けられないということ。
その汚部屋から1周忌までに鍵を探し出せるか。
訳ありの人が泊まりに来るホテルだけれど…
ミナトホテルに来る人達は、みなさん訳あり。
訳あり、と言っても、逃走中の犯罪者とかではなく、
家ではぐっすり眠れないから、と泊まりに来る人や、
ワンオペで育児中の人がひとときゆっくり眠りたい、とか
DV夫から逃れるために子供といっしょに移り住んでいたり…
陽子さんは亡くなる前に「ホテルは処分してもいい」といいましたが
篤彦は、「世界には逃げ場が必要」、と陽子さんのご主人が持っていたミナトホテルを残したのでした。
登場人物の人生が交錯して読み応えあります
篤彦が37歳、芯輔が25歳。
芯の祖父と篤彦のお母さんが同級生、というのはどういう計算?と思ったら、
篤彦は両親を事故で失くして、陽子さんのところにもらわれてきたのでした。
陽子さんの年の離れた妹が篤彦の本当のお母さんでした。
- 芯(正確には、木山芯輔‐しんのすけ)と職場の人たち、花岡月子、祖父
- 湊篤彦と陽子さん、家族、同級生・平田桐子
- 陽子さんと互助会メンバー
ミナトホテルを舞台に、三本の人間関係が交錯します。
生きづらい人生を歩んでいる人も登場しますが、
それぞれが、相手を思いやる優しい世界。
裏庭の扉を開ける鍵は見つかり、無事陽子さんの一周忌がホテルの裏庭で行われました。
陽子さんは、空に花が咲いているみたいだから、と風船が好きでした。
一周忌に風船が飛んでいった空を見て、空に花が咲いている…
そして裏庭に集まったみんなが風船が高く上っていった空を見つめて笑っている…
『咲くのは花だけではない』、ミナトホテルの裏庭には、笑顔の花が咲いていました♪
心温まる物語は、さすが寺地はるなさん、ステキな物語をありがとう^^