⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【辻村深月】「琥珀の夏」ネーミングの妙に唸る|子供の頃コミューンで過ごした夏の記憶

琥珀とは…大昔に、木の樹脂が虫などを包み込んで化石になったもの。

宝飾品になっていて、映画「ジュラシック・ワールド」にも、主人公が過去を語る時に琥珀を眺めていたような…

 

本著も、帯に「罪を記憶に閉じ込めて、私たちは大人になった」と本の帯にあります。

 

少女期に出会った二人が、それぞれの道を歩んで再び巡り合った時、二人の立場は、相対するものになっていました。

 

一人は弁護士、一人はコミューンの東京事務所の責任者。

ひとつの事件が明らかになり、二人は対峙することに。

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弁護士の近藤法子は、あるコミューン、ミライの学校の敷地内から出てきた女児の白骨死体が自分の孫ではないか、という夫婦の代理で ミライの学校の東京事務所を訪れます。

関係ない、と突っぱねられたけれど、法子は、その遺体が自分の知っている子ではないか?と疑い始めます。

 

本作は、

プロローグ

第一章 ミカ

第二章 ノリコ

第三章 法子

第四章 ミカの思い出

第五章 夏の呼び声

第六章 砕ける琥珀

第七章 破片の行方

第八章 ミライを生きる子どもたち

最終章 美夏

から成っています。

 

片仮名のミカとノリコは、それぞれの子供時代のお話です。

静岡の山奥にある「ミライの学校」というコミューンで過ごしているミカは小学校4年生。

両親と離れて、子どもたちや先生と「学び舎」で暮らしていました。

お母さんに会いたい、いつもそう願いながら、夜の泉へ大切なものを流すと願いが叶うと聞いてでかけていきます

 

ノリコは、同級生のユカちゃんとユカちゃんのお母さんの誘いで夏休み1週間だけ、「ミライの学校」に参加しました。

とても不自由な暮らしだけれど、普段の学校では、のけものにされているような疎外感があったのに、全く違う人間関係の中ですごせて ミカと出会って、幸せでした…

 

大人になり、弁護士として、妻として、母として、忙しくしているうちに「ミライの学校」のことを法子は忘れていましたが 白骨死体が、ミライの学校ん敷地内で発見された時、なぜか、あれは「ミライの学校」のサマースクールで出会ったミカちゃんじゃないかと言う思いに囚われていきます。

 

「ミライの学校」東京事務所で法子に対応してくれた女性こそが美香でした。

 

彼女の「ミライの学校」の子供だったがゆえの苦しみも描かれています。

 

白骨死体はヒサノちゃんでした。

意地悪でルールを守らない女の子。

 

反省を促す「自習室」から出られないように南京錠をかけたのは美香。

翌朝 食事を持っていくと ヒサノちゃんは亡くなっていて…

大人たちは、事件をもみ消し、広場の土の下に埋めたのでした。

閉鎖的コミューンで育つ子どもたちの生き難さ

一時期世間で批判を浴びた農業コミューンがモデルかな、と思いました。

小さなコミュニティで、世の中を知らずに育っていく コミューンで生まれた子どもたちは、結局、能力も学力も世間から劣るため、その中でしか生きられない、という設定でした。

 

すこし違う部分があるとは思いますがヤ○○○会がモデルのような印象をうけました。

ランドセルなども、先輩が使っていたお古を譲り受ける、という場面がありました。

 

「問答」と呼ばれる話し合いが繰り返され、結局の所先生に誘導される結論にいたるのです。

 

ミカは、ストイックな集団生活をしていると信じてていたのに、ヒサノによって、オトコの先生のロッカーからエッチな本が出てきた、と見せられ 聖域を踏みにじられたような気分になります。

それと同時に、尊敬していた先生に対する失望も味わい、二重に苦しみました。

 

そして起きたヒサノの死。

第一発見者のミカを守り抜くと言ってくれた大人たち。

うやむやのうちに処理されたことで、ミカのなかにずっとくすぶり続け、美夏を苦しめました。

 

コミューンの生活を見てきたかのように書かれており、興味津々

ミカとノリコの小学4年生のサマースクールの様子が興味深いです。

「ミライの学校」が神聖視している泉や、日常生活でのルールが興味深く、

500ページ超の読み応えのある本ですが、先が気になってどんどんページが進みました。

 

また、息詰まるような 法子と美夏の精神的攻防も。

 

ふたりがあの夏に心通わせたように、美夏の頑なに閉じていた心が、法子の働きかけによって氷解していくところも読み応えがありました。

法廷に持ち込まれたヒサノの死亡事件

ヒサノ(久乃)の母・志乃が原告となり、美夏やミライの学校を相手取って起こした裁判。

法子は、美夏の弁護を担当しました。

当時未成年の11歳の女の子であり、子どもたちの自主性を伸ばすという名目で周囲の大人は学び舎を留守にしていたことで 美夏の無罪が決定しました。

 

齢40を数える歳になるまで30年前の事件をひとりで抱えてきた美夏の心のうちを思うと、やるせない気持ちになります。

責任を感じ、自習室に外から鍵を掛けただけなのに「自分が殺した」と言ってしまう美夏の心は、自分の中の途方も無い深淵を肯定したかったのでしょうか?

 

ミライの学校で知り合い結婚した美夏と滋の間に生まれた二人の子供。

幸せそうな4人を見て、安堵する法子。

 

ラストで、ようやく 美香ちゃん、法子ちゃんと呼び合える二人に戻って、じわりと温かいものがこみ上げてきました。