河原敏明著「天皇の隠し子」を読みました。
何故この本の存在を知ったのか忘れてしまいましたが
図書館に予約していて やっと回ってきました。
ちょっとタイトルがスキャンダラスな感じですが
芸能ニュースの隠し子騒動とは次元の異なるお話です。
ノンフィクションで、著者が数年にわたり
取材を敢行した努力の成果ともいうべき作品ですが
この 実在の天皇の隠し子たる
今は亡き 山本静山門跡や宮内庁が
よく刊行を許したな、という感想を持ちます。
以下 ネタばれ含みます、ご注意ください
著者・河原敏明氏は、ある日 知人から
昭和天皇のご兄弟の三笠宮さまには
実は、双子の妹君がおられ、
今は奈良で仏に帰依されていると聞かされた。
このことが、氏のジャーナリスト魂に火をつけたのか、
精力的に 当時の事を知る人物を当たり
取材を進めていく。
ただ、事が事だけに、畏れ多く
取材をされた人たちは天皇を
現人神(あらひとがみ)としてあがめた世代です。
長い歳月秘密を守りぬいたと思われる人たちの口は重かった。
しかも当時を知る人物の多くは 鬼籍に入られていて
思うように取材ができない中、
熱心に、地道に取材活動を進め
直接 静山門跡にまで取材をするのです。
大正4年から秘密のベールに覆われていた事実を
白日のもとに曝すのは、なかなか勇気と覚悟のいることです。
しかも 天皇家にまつわる話なのでタブーな領域です。
よくぞ、元皇族がたを相手にここまで食い下がったな、と
著者の熱意と執念に脱帽です。
皇族の身に生まれながら、
5歳という幼き時から 肉親の愛を知らず
仏の道を歩んでこられた 静山門跡。
同じ時に生まれた兄君は、宮家を創設して
立派に皇族として職務を果たしておられる一方で、
数奇な運命に翻弄された静山門跡に同情をしてしまうのは
勝手なことなのかな、と読後に思いました。
ご本人は、当初何も知らされず育ってきたのだから
仏門におられることも、当然の事と受け止め
静かに暮らしておられた。
それが 青天の霹靂のように
事実を知らされたとしても
驚きこそすれ
今更に 全く別の人生をやり直すことなど
できるはずもなかったのではないでしょうか?
それを 「著者なりの善意」と義憤でもって
この本を書き上げたのでは?
それは 著者の独りよがりではなかったか?
誰も書くな、と口にだして止めなかったから
真実なんだろう、と確信し、本にしたようです。
著者が言うには、
昔は双子を出産すると「畜生腹」と言われ、
特に男女の双子は「情死者」の生まれ変わりとして忌みたので、
皇族には、男女の双子は
絶対あってはならないことだった・・・と。
それ故、女性であった静山(本名:糸子)は
生れ落ちてすぐ、人知れず里子に出され
仏門に入ることになったと明らかにしています。
著者が、三笠宮には双子の妹君がいたとの仮説を
強行取材で実証していくさまは、読んでいて面白く
推理小説さながらのどきどきの展開です。
パズルのピースを集めるように
取材で得た状況証拠をもとに確証を得るという
探偵さながらの作業です。
が・・・長い年月を静かに暮らしておられる門跡の
出生の秘密が たとえ真実だとしても
今更蒸し返したところで どうなるものでもなく
何かプラスに作用するわけでもなく
著者の、ほら、やっぱりね!という
自己満足にすぎないような気もします。
取材で、事実を否定する人には、
意地悪な質問をしたり、
言葉の駆け引きを楽しんでる様子も書かれています。
一人の皇女の数奇な運命、
その発端となった出生の秘密を暴く
この本は、興味深い内容ではあるのですが・・
おもしろうて やがて哀しき・・・という読後感です