happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

宮本輝著「灯台からの響き」読了

宮本輝さんの著作を読むのは初めてでした 

 この本を図書館に予約したのは、昨年の9月22日でした。

新聞広告には、芥川賞受賞(76‐100回)作家部門で

amazonランキング1位(2020/9/8)を獲得していた本です。

 

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 本の間から見つかった、妻宛ての古いハガキ。差出人は大学生の男。亡き妻の知られざる過去を追い、男は旅に出る。人生の価値を伝える傑作長編。

 BOOKデータベースより

 

市井の人々との邂逅を通じて、人生の価値を伝える傑作長編

 とのこと。

読まねばっ!!^^

 

宮本輝さんのお名前は以前から知っていましたが著作を読んだことはなく…

太宰治賞受賞の「泥の河」や映画にもなった「優駿」…はタイトルだけ知っています。

どんな作品を書かれる方なんでしょう…

冒頭からぐいぐい引き込まれ、一気読み!

400ページもある分厚い本でしたがあっという間に読んでしまいました。

 

父親から譲り受けた 東京・板橋の仲宿商店街にある中華そば店「まきの」を営む康平は、62歳。

妻・蘭子とふたりで切り盛りしていた中華そば店は、蘭子が60手前で急死した後、休業状態が続いていました。

友人関係が上手く行かず、高校を中退して逃げるように家業を継いだ康平は、大人になったある日「お前と話しててもつまらない、本を読め」と友人に言われてから読書を習慣にしていました。

買ったもののずっと手つかずだった本を読もうとしたら、ページの間から30年前に届いた妻宛のハガキが出てきました。ハガキには、海岸線と灯台を表すと思しき点が描かれていました。

そのハガキが届いた当初、妻は差出人に心当たりがない、と言っていたのですが…?

じゃあ、何故住所と名前がわかったのか?

いきなりの謎。

 

そして、妻は自分には話していなかった過去があることが判明。

さらなる謎!

 

ハガキの差出人と妻の知られざる過去に関係はあるのか??

 

もう止まらない~!!

 

灯台巡りの旅と商店街の人たちとの日常

自分に読書を勧めてくれた幼馴染のカンちゃんが心筋梗塞で急死しました。

彼は、「まきの」のある仲宿商店街で貸しビルを営んでいて、康平やお惣菜屋のトシオとも仲間だったのに…

カンちゃんには、カンちゃん自身も知らなかった隠し子が福岡にいて、カンちゃんを訪ねてきてたこともわかります。

この、多岐川新之助という青年が、作中で、いい働きをして、話を膨らませています。

 

「まきの」を閉めてから、出不精の引きこもりになっていた康平は、これではイケナイ、と ハガキのこともあり、灯台めぐりの旅をしようと思い付きます。

犬吠埼灯台から野島埼灯台、洲崎灯台、と房総半島をめぐる旅。

途中で、東京に帰っている、と連絡してきた息子が合流して…。

 

お店を回すことに精一杯で、息子とあまり会話もしてなかったことに気づく康平でした。

 

この本は、どこにでもありそうな人たちの話がたくさん散りばめられていて、身近な「あるある」満載です。それがほっこりとした気持ちにさせてくれます。

 

そう言えば、熟年の恋で話題になった 直木賞候補作「平場の月」(朝倉かすみ著)も、ありふれた日常の一コマが描かれていて面白かったです。

 

ここに書かれている、灯台にまつわる情報が興味深いです。

色(白、赤、緑、黄)、光り方を組み合わせて 光り方で、どこの灯台かがわかる仕組みになっているそう。

灯台の形や、海面からの高さ、どこから見るのがベストビューなのか、という情報もたくさん載っていて、灯台好きにはたまらないでしょう。

秘密が解き明かされて 妻の大きさを知る

出雲市の友人から康平の妻・蘭子に宛てた年賀状が何枚かありました。

毎年近況を書き送ってくれていたその文面の中に「出雲時代」という言葉を見つけます。

蘭子は中学時代に出雲市に住んでいたようです。が、それに気づいた息子に、蘭子は口止めをしていたのです。

やっぱり怪しいw 出雲で何かがあったのね…

 

康平は蘭子の叔母の石川杏子に電話をかけると…夫の実家のある出雲に来ている、と言います。早速、出雲まで出向くと、

石川杏子は、出雲時代の蘭子と暮らしていて、1軒おいて隣に住む小坂真砂雄の話を教えてくれました…

 

蘭子が15歳のときから、誰にも言わず1人で抱えてきた秘密。

人生には、口をつぐんで耐えつづけるひびがあり、ささやかな幸福の積み重ねがあり、慈愛があり、闘魂がある。

本の帯より

誰かの幸せを守るために…。

 ん~

私は、家族に秘密があるのは嫌ですけど。

家族(夫婦)になるのなら、それまでに生きてきた自分のしらない相手のことを知っておきたい。

秘密があるなんて気持ちが悪いし、隠し事される事自体、信頼関係を築けない気がしますが。

 

妻宛のハガキの差出人・小坂真砂雄に 意を決して手紙を出した康平。

今でも、古いその住所に手紙が届いたようで、当時大学生だった小坂真砂雄、今は50代の男が中華そば店を覗いていました…

 

小坂真砂雄は、康平を出雲へと誘いました。

30年前、届いたハガキに描かれていた海岸線は、日御碕であり、点で示されていたのは日御碕灯台でした。

その灯台で、真砂雄は、蘭子にあることを誓わされたのでした。

 

子供の頃の秘密を、真砂雄の立場を蘭子は守ってくれた、そして立派に大学を卒業できることを蘭子に伝えたかったんですね。

文章にすることは憚られたから、彼は、二人の秘密の象徴でもある灯台を描いておくったのでした。

 

日常の細々したことを読むのが興味深い

灯台めぐりの途中で立ち寄る居酒屋のお料理などの描写、中華そば「まきの」での、だしを取る様子が活写されていて、旅先の海鮮料理やフライ、「まきの」ならではの味…いろいろ想像して楽しいです。

 

散髪屋のおやじさんとの会話ではM字ハゲの話がでたり、カンちゃんの愛人が密かに産み育てていた新之助の半生も興味深いです。

康平の3人の子供、しっかり者の娘、離れて暮らす息子2人と不器用な親父の会話も面白い。

 

商店街のトシオとは、いいコンビで 作品を通して人と人との繋がりの温かさがじんわりと伝わってくる作品でした。